*

ここ数年最大の問題作か?

公開日: : 最終更新日:2014/02/03 高野秀行の【非】日常模様

2014.01.30munbai

キャサリン・ブーの『いつまでも美しく インド・ムンバイのスラムに生きる人々』(早川書房)を読んだ。
ここ数年、こんなに引っかかる小説を読んだ記憶がない。

この十年あまり、一般では「傑作」として評価・絶賛されている本で、私が「いや、問題作でしょ?」と異論をはさみたくなった本といえば、ノーベル文学賞を受賞したクッツェーの『恥辱』(ハヤカワepi文庫)と「本の雑誌」で1990年代のベストワンにえらばれたオースン・スコットカード『消えた少年たち』(ハヤカワSF文庫)が双璧である。

二作ともとても手放しで褒めるような本ではない。
「こんな本、アリか?」と眉をひそめたくなった。
かといって単純に批判の対象としたくなるわけでもない。
誰かと議論したくなるような小説である。
そして、面白いかどうかと言われれば、やっぱり面白い小説だ。

そして、今回の『いつまでも美しく』もそのラインにつながる。
(なぜかこれも早川書房だ。ハヤカワは問題作の好きな出版社なんだろうか?)

一昨日、この本について書こうとしたのだけど、難しすぎてやめてしまった。
自分の言いたいことを過不足なく読者に伝えるなら、何日もかかってしまうからだ。
私が感じた問題点をまとめるなら、

1)これはノンフィクションと言えるのか?

2)取材方法に問題がありすぎなのではないか?

3)結局、世界の頂点に君臨する人間が世界の最底辺の人々からさらに搾取しているだけではないか?

ということになる。

ただ、一流の問題作とは簡単に答えが出るものではない。
もしこれらの疑問がすべてイエスだったとしても(私はそうだと思うが)、
この本が存在するかしないかで言えば、存在すべきだと思ってしまう。

本書は小説として読んだとしてもひじょうに面白い。
(むしろ、「事実を元にした小説」だったら問題作ではなく普通に傑作だっただろう)
インドの最下層の人々をこんなにリアルに描いた本は読んだことがないし、
心をゆすぶられるのも間違いない。

読者のみなさんがこれを読み、各々で考えてみてほしいと思う。
ひじょうに有意義ですごく面白い読書体験になることはまちがいない。

関連記事

no image

思い出探しに来たわけじゃないけれど

現在、チェンマイに滞在中。 バンコクにいると、どうしても「これがタイだ」と思ってしまう

記事を読む

no image

「ダカノ−ヒデYuki」が説くエンタメノンフin韓国

 韓国最大のネット書店のサイトに私のインタビューが掲載された話は前にしたが、 読者の方が翻訳サイトを

記事を読む

野宿と携帯復旧

帰国後に拝受した本、第四弾(だっけ?) タイトルだけで笑える、かとうちあき『あたらしい野宿(上

記事を読む

no image

Shuto ni modoru

3shukan buri ni shuto no Thimphu ni modotte kita.

記事を読む

no image

アフガンのケシ栽培の謎(2)

 アフガンのケシはなぜそんなに大きい実がなり、ミャンマーの4倍ものアヘンがとれるのか?  一つには

記事を読む

no image

カメの肛門問題

水泳仲間(というか先輩)で獣医師のKさんが ときどき私の本を読んで、専門家の立場から意見を言ってくれ

記事を読む

no image

震災のリアルを超える傑作

本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』という本を私はまったく見たことも聞いたこともなかった

記事を読む

『謎の独立国家ソマリランド』電子書籍版、ついに発売!

『謎の独立国家ソマリランド』が発売されてから早1年9ヶ月あまり。 ついに満を持して電子書籍

記事を読む

no image

エル・ニーニョ

レイモンド・チャンドラー『リトル・シスター』は、訳はいいんだけどいかんせん原作がぐちゃぐちゃの失敗作

記事を読む

no image

スリランカ人しかいない焼肉屋

探検部の後輩たち数人と渋谷のラブホ街の真ん中にある焼肉屋に行く。 裏情報誌「裏モノジャパン」の編集長

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

  • 2023年6月
    « 3月    
     1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    2627282930  
PAGE TOP ↑