シワユメは絶版ではなかった
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高野秀行の【非】日常模様
去年の暮れあたり、『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)が絶版になった、ついては二次文庫を募集!
という内容のブログを書いた。
実はこれ、勘違いだったのだ。
小学館のおそらく管理部門の方の担当者から「『世界のシワに夢を見ろ!』を絶版にしたい」という通知が来たのはたしかだが、単行本絶版の通知だったのだ。
ふつう、同じ出版社で文庫化するときは、ほぼ自動的に単行本は絶版にする。
そりゃそうだろう。同じ内容(もっと言ってしまえば、文庫化の際に加筆修正もするから
その意味では古い内容)のものを同じ出版社が3倍くらいの値段で販売し続けるわけがない。
そして、その絶版にはたいてい通知などない。
だからてっきり私はこの通知が文庫絶版だと思い込んだ。
文庫化が2009年であるから、「ずいぶん早いな」とは思っていた。
私の文庫で絶版になったものはまだないし、シワユメもまあ一般的な本じゃないけど
地味に売れてるはずだし、ちょっと変な気はした。
ただ、担当編集者の人がすでに定年退職されて、以後私の担当は小学館に不在であるため、
詳しい状況も確認できないし
私が理不尽だと思うことでも世の中ではまかり通っているものがゴマンとあるので
これもその一つだろうと漠然と思った。
ただこのまま絶版はもったいない。
二次文庫化しようとすぐに思った。
小学館の管理部門の担当者に「他社で二次文庫化してもいいでしょうか」とメールで問い合わせた。
ここで「え、二次文庫化? うちで文庫を出しているのに?」という反応がかえってもよかったのだが、
担当の人もまさかこんな非常識な著者がいるとは夢にも思わなかったのだろう、
これをスルーして「契約解除の文書にサインすれば問題ありません」という趣旨の返事。
かくして互いに契約解除の文書を交わし、晴れてブログで二次文庫化を公募してしまった。
反応はとてもよかった。
5社から「うちでやりたいんですが…」と声がかかった。
(中には「どうしてあの本を絶版にするんだろう。小学館は何を考えているのか?」と訝る編集者もいた)
最速はブログアップの翌日に申し込んできたA社の編集者。これには私も驚いた。
もっともこちらは残念ながらというか、後で考えれば幸いなことにというか、
社内の企画会議で通らなかったという。
そこで別のB社に頼むことにした。
B社では不幸なことにちゃんと企画が通ってしまった。
私が昔からよく知る担当編集者と打ち合わせを行い、カバー案や解説を誰に頼むかという話までした。
ところが、その編集者から数日後電話がかかってきた。
「小学館の文庫編集部に挨拶の電話を入れたんですが、その本は絶版になってないって言われちゃったんですが…」と困惑した様子。
「はあ?」と私は大声で言った。「小学館、頭おかしいんじゃないか?!」
しかし、誠に残念ながら頭がおかしかったのは私の方だった。
小学館の文庫編集部から私の方にも直接「うちではまだ文庫が出ています」という連絡がきた。
そこで最初の絶版通知と契約解除の文書を見直したところ、「発行日2005年」と書かれている。
なんじゃ、こりゃ!!と絶叫したのである。
思えば、絶版の通知が来て二カ月が過ぎてもAmazonでは普通に販売されていて
「変だな?」と不思議に思っていたのだ。
でも世の中には私が不思議だと思っているのにまかり通っていることがゴマンとあるので
これもその一つにちがいないと確信していた。
でもこのときやっとわかった。
絶版になってないからこそ流通し続けているのだ。
当然、B社の編集者には平謝り。
幸い、彼は私のことを熟知してたので、「さすが高野さん!」と大笑いして済ませてくれた。
私は過ぎたことに対する執着が人の数倍少ないので
あっという間にこの問題も忘却してしまった。
ところがその後も二次文庫を希望する連絡が入り、
また一部の書店にも混乱を引き起こしていることを知るにあたり、
これは公表しないとまずいとようやく気づいた。
というわけで、またしても「間違う力」を発揮してしまいました。
小学館のみなさん、二次文庫を希望された出版社の編集者のみなさん、
その他書店のみなさん、そして読者のみなさん、今回は大変ご迷惑をおかけしました。
申し訳ありませんでした。
『世界のシワに夢を見ろ!』は小学館文庫から出続けております。
きっと当分は絶版になることもないでしょう。
それなりに売れているようですから。
ここにお詫びと訂正を申し上げる次第です。
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