*

おお、神よ、私は働きたくない

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

宮田珠己待望の新刊『なみのひとなみのいとなみ』(朝日新聞出版)が発売された。
単行本の新刊は一年半ぶりくらいなので、一刻も早く読みたいと思い、
アマゾンで注文したのだが、注文した瞬間に「今読みたい、今すぐにだ!」という
メラメラとした思いが燃え上がり、
結局吉祥寺まで出かけて買ってしまった。
そこでハタと気づいたのだが、タマキングの本は公共の場では読めないのだ。
ところかまわず噴出してしまうからだ。
まるでエロ本のように一人でこそこそ読まねばならない。
なにしろ今すぐ読みたいので、家まで我慢ができない。
吉祥寺のAV鑑賞ルームに行くことまで考えたが、そんなところへは行ったことがなく
かえって手続きが面倒くさそうだったから、最寄り駅の隣駅で下りてドトールへ。
ここで口元をおさえて読めばいい。
ちょっと変な奴と思われても二度と行かないから大丈夫だ。
それまで用心深く、中身はもちろん、表紙も見ないようにしていたが、
コーヒーを注文しようと列に並んだとき魔がさしてしまった。
裏表紙の帯をちら見してしまったのだ。
「はるか昔、銀河の彼方で、まだわたしがサラリーマンだった頃、
営業の外回りで街を歩いていると、突然、働きたくない、という天啓に打たれた。
圧倒的な「働きたくない」の光が天の啓示として、どういうわけか、
営業中の私に降り注いだのである。
おお、神よ、私は働きたくない。」
むひひひひ…という奇妙な笑い声が漏れてしまいましたよ。
あーあ。
コーヒーを頼む前だから恥ずかしかった。
でもさ、あまりにくだらないんだもん。
バカじゃないだろうか。
私じゃなくてタマキングがだ。
というのも、タマキング本人が言ってたのだ。
「今回の本はバラバラのエッセイの寄せ集めで、正直言って面白くない。
評判さげると思う。だいたい、日常エッセイというのを書くのが辛くて…」とか。
読んでみれば、帯の文句のとおり、期待どおりの面白さだった。
旅じゃなくても、この人は何を書いても面白い。
「宮田珠己」という変態、いや偏光フィルターが入っているから、
どんな風景でもどんなモノでもちがって見えるようになっているのだ。
なのに、本人は「もうネタがない」とか「日常エッセイは書けない」とか
「自伝的エッセイはこっぱずかしい」とか、
あれこれ言い訳を言っては編集者からの依頼を片っ端から断っているという。
バカなんじゃないか、宮田珠己。
自分の面白さに気づかないとはどういうことだ。それとも単に働きたくないだけか。
夜、それについて再考しているとだんだん腹が立ってきた。
で、思ったのだ。
「タマキングのマネージャーになりたい」と。
ごちゃごちゃ言ってないで、なんでも書かんかい!と尻を引っぱたきたい。
ちょうど私はもう書くネタもないし、日常エッセイも性に合わないしで、
仕事量は激減している。
タマキングのマネージャー業を真剣に考えてもいい頃なのだ。
休み明けには正式に本人に打診してみようと思う。
(アマゾンからの本は今届いた…)

関連記事

no image

ずいぶん前の話だけど

ずいぶん前の話だけど、早大探検部の先輩・西木正明の『流木』(徳間文庫)という本の「解説」を頼まれて、

記事を読む

no image

ゾウ本、着々と

本の雑誌社の杉江さんと打ち合わせ。 ゾウ本(「辺境の旅はゾウにかぎる」)の製作が着々と進んでいる。

記事を読む

no image

サハラから八王子へ

やっとサハラマラソンの原稿が終わった。 どういう形になるかわからないが、本の雑誌の杉江さんに渡してお

記事を読む

熱気ムンムンの概説書

最近、どうにもオーバーキャパシティで、ブログに手が回らない状態が続いている。 一つの原因は対談本を

記事を読む

no image

おすすめ文庫王国2010

この前のエンタメノンフ忘年会で杉江さんに「おすすめ文庫王国2010」をいただいたので それを読んで

記事を読む

no image

かっこいい公務員たちの物語

片野ゆかの『ゼロ!こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?』(集英社)が本日発売である。

記事を読む

no image

ミャンマーでまた政変?!

 さあ、「ビルマロード」へ行くぞ!と気合を入れ、さらに今年末には「イラワジ河ほぼ全流下りをやるぞ!」

記事を読む

no image

三沢の試合を見よ

アフリカに行っている最中、三沢光晴の急死について、 知人や読者の人たちから多数のお知らせメールをいた

記事を読む

no image

ジュンク堂新宿店&啓文堂渋谷店と特別契約?!

 昨日、ジュンク堂新宿店へ行った。アジア・コーナーには、私の『西南シルクロードは密林に消える』(講談

記事を読む

no image

続・能力の限界

これが幻のポスター。 やっと、ブログにアップすることはできた。 しかし、これを元にポスターにするに

記事を読む

Comment

  1. くがーる より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.0.3705; .NET CLR 1.1.4322)
    私の大好きな高野さんとタマキングがこんなに仲良くしているのが、なんだかとても嬉しくて、週1回タマキングの日記更新に合わせてお二人のサイトを見てはニマニマしています。
    それはそうと、「ワセダ〜」のあとがきにあった「バイト話」の本、いつか出してください〜!

  2. komari-ko より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1)
    高野さんが絶賛する変態フィルター(笑)が入ったその人の本を私も読みたい!と、さっそく図書館で予約しました!(買え
    図書館のあちこちに分類されて置かれていた宮田さんの本、4冊集めて借りました。
    世の中には色んな人がいますね〜。おもしろいです。

komari-ko へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年8月
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    25262728293031
PAGE TOP ↑