*

モノカキ=ハジカキ

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

 
先日、読者の方からメールで『辺境の旅はゾウにかぎる』の誤りを指摘された。
船戸与一『金門島流離譚』の解説(P.236)で、国共内戦に国民党が敗れたあと
大陸からやってきた中国人を「外省人」、もとからいた中国系を「内省人」と書いていた。
ご丁寧に「ないしょうじん」とルビまで振っているのだが、
実は「内省人」などという言葉はない。
ほんとうは「本省人」である。
「外」の反対語は「内」だから、勘違いしたのだろう。
しかし、何度も読み直したのに全然、その間違いに気づかなかった。
どうかしている。
もっとも私のような粗忽な、あるいは無知な著者の書いたものは
校正者がちゃんと直す。
校正ゲラがあがってくると、赤面するほど、いろんな指摘がされているのが通常だ。
そんなプロの校正者も気づかなかったらしい。
さらに言えば、発売後4ヶ月もたつのに、今まで誰からも指摘を受けなかった。
よほど気づきにくい間違いだったのだ…と考えたいが、
私には台湾を専門に研究している友人もいる。
彼が見逃すわけないよな。
彼をはじめ、多くの人が苦笑しながらも、温かくスルーしてくれていたのだろう。
いや、ほんとにお恥ずかしい。
ちなみに、ご指摘をいただいた読者の方は台湾の客家語教室を開いたりしているほどの
台湾通らしいが、その方によれば、
「もっとも、「本省人」も普段あまり使われない言葉で、
「台湾省」が事実上廃止された 現在は「本島人」を使うべきだと独立派の人たちは主張しています。
さらに言うと、「本島人」も余り使われない言葉で、「四大族群」として、「原住民、客家、ホーロー(福建系)、外省」というのが一般的に言われています。
そして、「外省VS本省」という対立よりも、人口の7割を占めるホーローに対抗して、
「ホーローVSその他」という構図が見られるなど、なかなか一筋縄ではいきません」
とのことである。
もう一つ、ミャンマー専門家の義姉から指摘を受けた誤りがある。
ミャンマーの腰巻きについて、私はこう書いている。
「一般にロンジーと呼ばれているが、正確には男ものがロンジーで、
女ものはタメインという」(P.67)
これは間違い。ほんとうは、
「一般にロンジーと呼ばれているが、正確には男ものがパソーで、
女ものはタメインという」
と書かなければいけなかった。
こちらは勘違いでなく、本式に間違って憶えていた。
薀蓄を披露するところで間違ってどうする!と自分ごとながら突っ込みたくなる。
一般に、物書きとは「恥書き」の同義語だ。
自分の見聞きしたことや思ったことをしたり顔で書いたうえ、
それを売って金を得ようなんていうことは相当な恥知らずでないとできない。
さらにはこんな基本的な間違いまで犯す。
モノカキはハジカキ−−とあらためて胆に命じておきたい。

関連記事

no image

福島県の今

3日、福島県へ。 原発から30キロの最前線、田村市のムーミン谷(仮名)を訪問。何の緊張感もなく、ふつ

記事を読む

no image

続・プロレスの罠

こんなことをしていてはイカン!と思いつつも またもやプロレス本を一気読み。 小島和宏『ぼくの週プロ

記事を読む

no image

トルコ・ワン湖の怪獣

> タカさんというUMA(未確認動物)ファンの方から、今話題となっているいろいろなUMAを紹介

記事を読む

no image

今年も奇書で行きます

新年あけましておめでとうございます。 今年は高野本プチバブル最終年になる。 新刊、文庫合わせて5冊

記事を読む

no image

夢のようなアジアの列車旅

おかげさまで『謎の独立国家ソマリランド』は先週、日本経済新聞と東京(中日)新聞の書評で取り上げてもら

記事を読む

no image

見えないサッカー世界大会

昨夜、ギリシアより帰国。 行きも帰りも飛行機に乗っている時間(トランジット含む)が24時間を超えると

記事を読む

『バウルを探して』が新田次郎文学賞を受賞!!

川内有緒『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)が 第33回新田次郎文学賞を受

記事を読む

no image

イトコの息子と探検部の後輩

盲目のスーダン人・アブディンの親しい友だちで 外語大のアラビア語学科在籍中にスーダンへ一年間留学した

記事を読む

no image

このベタな帯の作者はなんと…!!

妻・片野ゆかの「犬部!」(ポプラ文庫)が4月6日に発売になる。 単行本で3万部近く売れた、我が家で

記事を読む

no image

ある阿呆の血

10日ほど前だが、このブログを通して、読者からのメールが来たのはいいが、 「あなたは私を知っている。

記事を読む

Comment

  1. 義姉 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727)
    物書きのつらいところって、証拠が残っちゃうことですよね。だからこそ、何年も前に、それどころか何百年も前に書いたものがネタになって、当人とっくに死んでるのに批判されたりしたりして。批判されて納得できない時は受けて立つ、打たれ強さが物書きの身上なら、誤りをいさぎよく認めるのも物書きのえらいところですよ。
    いや〜、物書きってやっぱりすてきですねえ〜。

  2. タカ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.5; Windows 98; Win 9x 4.90)
     高野さんのお偉いところは、間違いを指摘されたところをこうやって
    オープンにしちゃうところだと思いますよ。
     「怪魚ウモッカ」が掲載されていたころに買った、小説すばる に
    載っていた推理小説、どう読んでも犯人Aにはアリバイがあるので、
    その旨「おかしいじゃない」とすばる編集部に連絡しましたが、まったく
    無視されまっしたよ。
    (スラウェシでのシーラカンス探しは失敗に終わりました)

  3. りるる より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727)
    ロンジー すてきですよね。
    ミャンマーからの研修生テンコー君は崇高な目標と国のため日本に研修にきてるんですが、
    秘かにミャンマーのテンコー様 と呼んでいます。
    アジアは なかなか 奥が深いです。
          (ヨン様フアンの日本語教師)

  4. rira より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.0.04506)
    台湾を専門に研究している友人って、もしかしてオレのこと?
    もちろん、すぐに気付いていたよ!(笑)
    それにしても面白い本だよね、これも!
    ちなみに最近妻は、ゆかさんの『愛犬王』を読んでます。

りるる へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年9月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑