スーツでヤブ漕ぎをする人を発見!
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
読売新聞のインタビュー取材を受けた。
「何か“原点”とか“こだわり”のある場所でインタビューするという企画なのですが…」
というので、昔住んでいた八王子の実家の裏にある雑木林に行ってみた。
その辺りは私が引っ越してからの25年の間に、
徹底的に開拓されてしまった。
畑や原っぱだらけだったのが宅地になっただけではない。
大小さまざまな坂があったのに今はまっ平ら。
土地を削り、地形まで変えてしまったのだ。
道ももちろんまったく別物。
日本の象徴のような場所だが、私たちがなぜか「いっけん」と呼んでいた小さな森だけが
かろうじて残されている。
私は子どものとき、毎日のように弟とそこに通い、
クワガタやカブトムシを探した。
だからそこで取材を受けたのだが、なんということか
新たな宅地化の波はとどまることを知らず、
いっけんの森までもどんどん削っている。
おかげで森の入口がふさがれ、小道が通れず、
背丈近くもある熊笹のヤブに突入。
サンダル履きでヤブを漕いでいたら、
このちっぽけな森に感じたときめきみたいなものが
ずずっと蘇った。
その先に光り輝く何かがあるような気がしてしまうのだ。
あと一歩で奇跡が見られるような、錯覚がする…。
実に小さなメモリークエスト(ていうか感傷)を楽しんだ私はいいが、
読売のK記者はかわいそうに、スーツにネクタイという姿で
ヤブ漕ぎをするハメになっていた。
そんな人は初めて見たのでおかしくてしかたなく、
笑いをこらえるのが辛かった。
いや、お疲れさまでした。
(記事掲載は来週の土曜の夕刊の予定だそうです)
関連記事
-
-
犬と辺境旅をしてみたい
最近頭がぼやあっとして、ここに書いたかどうかも憶えていないのだが、 7月1日に行う旅の本屋のまどでの
-
-
『異国トーキョー漂流記』新装版
『異国トーキョー漂流記』(集英社文庫)が今年のナツイチ(集英社文庫の夏の百冊)に 入るにあたり、カ
-
-
今度はジュンク堂新宿店で
丸善ラゾーナ川崎店で驚いていたら、 今度はジュンク堂新宿店で「高野秀行が偏愛する本たち」というフェ
-
-
イスラム二日酔い紀行
昨日は扶桑社に用事があって浜松町へ。 数年ぶりにブックストア談に行って、「イスラム飲酒紀行」を探す。
-
-
次にブレイクする作家
今月8日発売の「本の雑誌」(7月号)に、久しぶりに私の名前が出た。 「次にブレイクする作家はこ
-
-
来たれ、ポロロッカ!
昨日、『困ってるひと』に重版がかかったという知らせが届いた。 発売後たった6日のことだ。 よく「発売
-
-
謎の独立国家ソマリランド大吟醸拾年古酒
仕事場にしている「辺境ドトール」は昭和の世界だ。 店長夫妻が常に店におり、私たち常連の客と交流
Comment
AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)
来週土曜日、29日ですね。うちは読売取ってますので、楽しみにしています。柳生一族以来、先生のフアンであるオジサン友人にも知らせておきます。そこも読売とっておられますから。