*

ネットでキム・ジョンイルになる方法

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの 現場からのネット敗北宣言』(光文社新書)
は傑作だった。
著者がここで主に書いているのはネットの口コミ世界なのだが、
それは新しいメディアでもなんでもなく、要は「居酒屋の雑談」だという。
酔っ払いが管を巻いて、どうでもいいことをしゃべっているだけで、
そこに創造的なことやまじめなことを期待してもしょうがない。
しかも話題はもっぱらテレビ。
(雑誌は蚊帳の外、本など蚊帳の外の外)
目から鱗だったのは、企業向けのアドバイスで
自社商品の反応を見るとき、悪い意見など聞かなくてよいという部分。
「悪い意見は、自分が想定しているか謂れのない中傷のため、あまり参考にならない」とのこと。そこで著者が進めるのは「山田食品 ふわふわプリン おいしい」などと、良いキーワードとセットで検索することだという。
そうかと思った。
私もたまに自分の名前や本をネットで調べ、「もう全盛期のパワーが感じられない」とか
「何読んでもドタバタしてるだけ。飽きた」などというコメントを見つけ、どーんと落ち込んだりしていたのだ。
早速「高野秀行 面白い」と入れてみた。
すると…おおっ!
出てきたのは、「高野秀行の本は面白い」という意見ばっかりだ!
批判的な意見はゼロ。
まるでキム・ジョンイルになったような気分だ。
マンセー! タカノ本!である。
一時間、夢心地に浸ったが、やがて気持ち悪くなってやめた。
ネットに過度の期待は禁物だ。

関連記事

no image

間違えてしまった…

「ミャンマーの柳生一族」が予想以上に好評だ。 あんなトンチキな本、誰が読むんだろうと他人事のように思

記事を読む

no image

螺旋

たまにはガイブン(外国文学)が読みたくなり、サンティアーゴ・パハーレスの『螺旋』(ヴィレッジブック

記事を読む

no image

ダルマ死す。享年17歳9ヶ月

飼い犬のダルマが昨晩、午前2時ごろ息を引き取った。 享年17歳9ヶ月。人間なら90歳くらいの高齢だっ

記事を読む

no image

世界一の辺境・日本で活動します

ほんとうは4月初めからソマリランド&ソマリアに行く予定だったが、 今回の大震災でキャンセルすることに

記事を読む

no image

「いちおう民主国家」ミステリ

今さらだが、伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』を読んだ。 独裁国家でのミステリ読書週間の番外編だ。

記事を読む

no image

豚に真珠とはこのことか

昨年亡くなった義母の命日なので (そして一昨年亡くなった義父の命日にも近いので)、 義姉とその夫であ

記事を読む

no image

ジャナワール・トークライヴ

コダックフォトサロンで開催されている、カメラマン森清の個展会場で、 角田光代さんとトークライヴを行う

記事を読む

no image

ダーティな本気はピュアなのか

斉藤一九馬『歓喜の歌は響くのか 永大産業サッカー部 総武3年目の天皇杯決勝』(角川文庫)を読んだ。

記事を読む

no image

見上げてごらん

 前に「イスラム飲酒紀行 イラン篇」はSPA!3月24日発売号に掲載と書いたが、 どうも間違いだっ

記事を読む

no image

あの映画は何だったのか

名前はよく知っているし、名場面や音楽も知っているような気がするが、 実は一度もちゃんと見たことがない

記事を読む

Comment

  1. komari-ko より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.0; .NET CLR 2.0.50727)
    あはは〜。マンセー!タカノ本!私はいつもそう思ってますよ。

  2. そろばん塾 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X Mach-O; ja-JP-mac; rv:1.8.0.2) Gecko/20060328 Firefox/1.5.0.2
    高野さんの本はさいこうだし、高野秀行という人間そのものがさいこうです!タカノ本をよむと、気持ちが温かくなってきます。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑