*

アフガンのケシ栽培の謎

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

 先週のことだが、ミャンマー・フォーラムへ行ってきた。
 ミャンマーで行われている「麻薬(ケシ)栽培」をやめさせ、その代わりに別の薬用植物を植えるというプロジェクトをやっているNPOが主催した集まりだ。
 理科系(植物学、バイオテクノロジー、栄養学など)のフォーラムなので、グラフや化学式がスライドに映し出され、独特の雰囲気があった。
 フォーラム自体も面白かったが、そこで何人かの人と知り合いになり、それもよかった。
 中でも話がはずんだのは、京都薬科大学の後藤先生である。
 先生は植物学者だが、なぜかケシ(=アヘン)と麻(=大麻)の研究を専門としている。 最近、日本で初めて(世界でも初めて?)ケシを苗から育てるという方法に成功、「モルヒネ含有量の多いケシを作れるようになりました!」と嬉しそうに語っていた。
 モルヒネはそれだけならご存知のようにれっきとした医薬品だが、化学合成でヘロインを作ることもできる。
 つまり、ケシ栽培自体は「麻薬栽培」ではなく、それがそもそも薬用植物栽培だ。
 人間の都合で、そこから得られるアヘンが貴重な医薬品になったり麻薬になったりする。
 「麻薬栽培」という非科学的な呼び名はやめてほしいと私は以前より口を酸っぱくしているのだが、いっこうに効果はない。でも、特に、理科系の人たちには科学的な言葉つかいをしていただきたいものだ。
 それはさておき、私が前々から気になっていたアフガンのケシ栽培について、後藤先生に訊ねた。
 アフガンは現在、世界のアヘン生産の7割という圧倒的なシェアを誇る。
 しかし、私が国連発表のデータをネットで見て驚いたのはそれではない。
 ケシ畑の単位面積辺りのアヘン生産量で、アフガンがミャンマーの4倍になっていることだ。
 要するに、1hのケシ畑があった場合、ミャンマーで10キロアヘンが取れるとすれば、アフガンでは40キロとれる計算になる。
 これはいったいどういうことか?
 実際に、新聞の写真で見ても、アフガンのケシの実の大きさには驚かされる。
 柿みたいにでかいのだ。
 ミャンマーのケシの実など、あれに比べれば、ビワかスモモくらいだ。
 どうして、同じアヘンゲシでそんな違いが出来るのか?
 その疑問を後藤先生に尋ねてみた。すると、意外なことがわかった。
(つづく)

関連記事

no image

重版ラッシュ

二日前、「幻獣ムベンベを追え」と「巨流アマゾンを遡れ」がそれぞれ三千部ずつ重版になった。 両方とも単

記事を読む

no image

ネアンデルタール人の冬眠性って…

 ケリー・テイラー=ルイス著『シャクルトンに消された男たち』(文藝春秋)の書評を書く。  前に書いた

記事を読む

no image

『虐殺器官』の衝撃

つい先週、『天地明察』(角川書店)を読み、「今年日本の小説でこれ以上のものは読まないだろう」と思っ

記事を読む

no image

2月から3月はブータン

1月にソマリランドを再訪する予定だったが、 諸事情により延期し、 かわりに2月10日頃から約1ヵ月、

記事を読む

no image

かっこいい公務員たちの物語

片野ゆかの『ゼロ!こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?』(集英社)が本日発売である。

記事を読む

no image

おお、神よ、私は働きたくない

宮田珠己待望の新刊『なみのひとなみのいとなみ』(朝日新聞出版)が発売された。 単行本の新刊は一年半ぶ

記事を読む

no image

リキシャ・アートは語る

バングラの印象といえば、リキシャ。 自転車がひっぱるサイクルリキシャがメインだが、 人間を乗せるだ

記事を読む

no image

船戸与一は不死身

日本冒険小説協会の内藤陳会長が昨年末に亡くなり、その追悼イベント 「内藤陳帰天大宴会」というものが行

記事を読む

no image

豚追い人

バングラ北部への旅の途中、すごく変なものを見た。 ヤギか牛を追うように、棒をもって群れを追い立てて

記事を読む

no image

柏レイソルに敗れる

ソマリランドの命綱とも言われるベルベラ港の出身のソマリ人がいると聞き、 その人の住む柏まで会いに行く

記事を読む

Comment

  1. ほしな より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/125.5.6 (KHTML, like Gecko) Safari/125.12
    ミャンマーというだけでまったく関係のない話なんですが、
    東京・神田神保町交差点すぐそばにある立ち食いそば屋「二八屋」は
    奥さんをはじめ従業員がみなミャンマーの人です。
    客あしらいがとてもよく気持ちよく食べられる店なのですが、
    残念なことに今週の金曜日をもって閉店してしまうようです。
    そば湯はかならずもって来てくれるし、新商品は無料で試食させて
    くれるし、良い店だったのに残念です。関係ない話で失礼しました。

  2. ミャンマーのケシ代替薬用植物栽培プロジェクト

    ミャンマーという国に皆さんはどんな印象をお持ちだろう。ビルマの竪琴、軍事政権、ゴールデントライアングル。。。ジャングルという観点からも非常に興味深い場所である。このサイトの相棒でもあるショウタがヤンゴン在住ということもあり、トシもミャンマーにはそれな

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年9月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑