*

もう一つのキンシャサの奇跡

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


映画「ベンダ・ビリリ もう一つのキンシャサの奇跡」を渋谷のイメージフォーラムで見た。
もう一つのキンシャサの奇跡といっても、そもそもキンシャサの奇跡自体を知らない人が多いだろう。
前にもこのブログでも書いたかもしれないが、1974年、ザイール(現・コンゴ民主共和国)の
キンシャサで、モハメド・アリとジョージ・フォアマンが対戦、
全盛期をとっくに過ぎていたと思われていたアリが、若くてものすごいハードパンチャーのチャンピオン、フォアマンに勝てるわけがないと言われ、
実際に8R途中まで圧倒的にフォアマンが優勢だったところを、アリが大逆転でKO勝利を収めた。
今ユーチューブで見ても、信じがたい逆転劇だ。
http://www.youtube.com/watch?v=doM5CblaXto&feature=related
ちなみに、このときコンゴ人の観客がアリに「アリ、ボマ・イェ!(アリ、やっちまえ)!」とリンガラ語で声援を送ったところから、それが訛って、
「アリ、ボンバイエ!」と連呼する曲が作られた。
それがアントニオ猪木に寄贈され(と言われている)、テーマ曲として使われることとなった。
それがおなじみ、「イノキ、ボンバイエ!」の「炎のファイター」だ。
(さらに余談だが、新日本の中邑真輔の得意技「ボマイエ」も同じ意味である)
で、それから30年あまり。
名前もコンゴに変わり(というか戻り)、エンドレスにつづく内戦で疲弊しきったキンシャサの町には路上生活者があふれている。
その中で、体が不自由でかつ路上生活をしているという人たちが中心になってつくったバンドがベンダ・ビリリ。
路上で演奏していたところをフランス人映画監督に見いだされ、
初CD録音からヨーロッパ演奏ツアー、世界で大人気!という「奇跡」に遭遇した。
その一部始終を記録したものだ。
…と、蘊蓄を傾けて淡々と書いてきたが、実は私はあまりに懐かしくて
映画が始まる前、ベンダ・ビリリの音楽が流れてきたときに、もう目がうるうるしてしまった。
こてこてのリンガラ・ミュージックだったからだ。
映画がはじまって、キンシャサの町が写れば懐かしさが募るばかり。
20年たっているが、大した変化は見られない。
車はさすがに新しくなっているが、建物はかえってぼろくなっているくらいか。
だから正直言って、客観的にどうかわからないが、
ほんとうに出てくる人たちの顔と音楽がいい。
ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブやノースモーキングオーケストラ級だ。
実はこの日、私はちょっとめげることがあったのだが、
そんなの全然大したことがないと元気づけられた。
コンゴに無縁な内澤旬子副部長の大絶賛していたから、たぶん誰が見てもいいんだろう。
http://kemonomici.exblog.jp/
これから全国で上映されるらしいし、ベンダ・ビリリのバンドが10月には来日公演するというから、とにかく是非見に行ってほしい。
詳しくは以下をご覧ください。
http://bendabilili.jp/movie/

関連記事

no image

異文化の二日酔い

何でも面白かったり気持ちよかったりすると歯止めが効かなくなるのが 私の悪癖だ。 「ほどほど」でいられ

記事を読む

no image

たまには手紙で

「朝日新聞」が3月31日より「57年ぶりの紙面大幅リニューアル」され、 その特別記念企画としてタマキ

記事を読む

no image

なぜか、まだ日本にいる…

なぜか、まだ日本にいる。 ミャンマー取材の許可がまだ取れず、出発が伸び伸びになっているのだ。 本来な

記事を読む

no image

『間違う力』発売開始

『間違う力 オンリーワンの10カ条』(メディアファクトリー)が発売になった。 丸善川崎ラゾーナ店で

記事を読む

no image

エンタメノンフの傑作

巷では有名なのに、私は全然知らないという物事がたくさんある。 おそらくは徳島県上勝町の「奇跡」もそ

記事を読む

no image

「ダカノ−ヒデYuki」が説くエンタメノンフin韓国

 韓国最大のネット書店のサイトに私のインタビューが掲載された話は前にしたが、 読者の方が翻訳サイトを

記事を読む

no image

驚嘆のユーゴ・サッカー三部作

山田先輩は四万十に帰ってしまいサッカーファン強化合宿は終了してしまったが、 その後も自主練はつづい

記事を読む

no image

宮田珠己がソマリランドとソマリアに迫る!

またまたイベントのお知らせです。 『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)発売記念 高野秀

記事を読む

no image

奄美合宿

ツイッターを始めてから、ブログに書いたのかそれともツイッターに書いたのかわからなくなることが多々ある

記事を読む

no image

美しき日韓問題

講談社ノンフィクション賞を受賞した安田浩一『ネットと愛国』(講談社)を読んだ。 丁寧に取材した

記事を読む

Comment

  1. fuugo より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; ja; rv:1.9.2.10) Gecko/20100914 Firefox/3.6.10 ( .NET CLR 3.5.30729)
    ベンダ・ビリリの映画予告編を見て、CDの試聴をしました。ああ、ライブで見ないと(聞かないと)良さが伝わらないバンドなんだな、という印象でした。
    来月、映画とライブにいってみたいと思います。
    正直にいって、Boowyのライブに行った後、初のアルバムを聞いたくらい落差があって驚きました(笑

  2. Lehman Packer より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
    コンボのオーケストラ「Kinshasa Symphony」というのもあるそうです。
    下は独「シュピーゲル」の記事。
    http://www.spiegel.de/fotostrecke/fotostrecke-59744.html
    これも映画化されており、下は予告編のユーチューブです。
    http://www.youtube.com/watch?v=_vTk0XsgZV4
    僕はベンダ・ビリリの方が好きかな。

  3. LP より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
    間違えました。コンボじゃなくてコンゴです。

  4. ぶあ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.0.3705; .NET CLR 1.1.4322)
    遅ればせながらベンダ・ビリリ観ました!
    内澤副部長同様泣きっぱなしでしたが、映画館を出るときは晴れ晴れとした気持ちになりました。
    もっとちゃんとこの記事を読んでいれば、三鷹のライブも行きたかった…。
    吉祥寺のサンロード(商店街)ではかなりの音量で彼らの音楽が流れてます!
    サラ・モサラーゆうてます。笑っちゃいました。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2023年12月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    25262728293031
PAGE TOP ↑