*

TBS「クレイジージャーニー」とすしざんまい

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

さきほど私が出演したTBS「クレイジージャーニー」が放映された。

当初は「ムベンベ」「アヘン王国」「ソマリランド・ソマリア」「西南シルクロード」を全部やる予定だったが、

あまりに盛りだくさんなため「西南シルクロード」をカットした。で、収録したら、それでも盛りだくさんということで、2回に分け、ソマリ部分は次回にすることになったそうだ。

見ていて、いろいろと感慨深かった。

まず、アヘンの話がテレビで放映されること自体が初めてで新鮮だった。

これまでテレビには何度も出たことがあるが、アヘンの話はタブーだった。

(なぜかラジオはどこでもOKで、何度も話しているが)

なのに、今回はアヘンがメインで番組を一本作っているのだからすごい。

 

もう一つは、やっぱり懐かしくなった。今頃、村の人たちはどうしてるんだろう?と思う。

昨年、「ワ州」から突然Facebookを通じてメッセージが送られてきて驚いたことがある。実はロンドン大学で文化人類学を教えているドイツ人研究者だった。私の本を読んで、ワ州に行き調査を始めたそうだ。

「今でも君のことを憶えている人が大勢いる。こっちに来るなら歓迎してくれるよ」と言っていた。

一度行ってみるのもいいかもしれない。ただ、アヘンはもうないんだよな…。

 

ちなみに、今日、番組を一緒に見ていた妻は、松本人志さんが「ワ州」という言葉を発したところで大受け。

「だって、うちの茶の間以外で『ワ州』なんて初めて聞いたから」

そうか。「ワ州」とか「アヘン」というのは、うちでは「家庭用語」だったのか。

 

 

たまたまだけど、昨日からなぜか「すしざんまい」の社長の話題がネットで盛り上がっている。

ソマリアの海賊を一人で絶滅させたとか。

そんなわけがないだろう。もしそうだとしたら、とっくに世界中で大ニュースになっているはずだ。日本の一業者がソマリアの海賊を全部退治したなんていうのは、ネッシーや雪男が捕まったという話と同じくらいの途方もないニュースだ。

 

海賊の激減とすしざんまいには何も関係はない。たとえすしざんまいで元海賊を漁師や船乗りに雇っても、

他の人間が海賊をやるから同じことだ。

ソマリの海賊がこの2,3年で激減したのは、一般の船舶が武装護衛をつけるようになったことがいちばん大きい。従来は丸腰だったから襲われるのは無理もなかった。ところが2,3人でも護衛をつけると大違い。なにしろ通行する船はでかい。海賊は下からはしごをかけて上がっていかねばならない。それを上から銃で撃てば、海賊は手も足も出ないのだ。

2番目の理由は、自衛隊を含む各国の海軍が警備を行っていることだろう。

まあ、仕事がなくなった海賊の一部はすしざんまいで助かっているかもしれないが。

というか、ちゃんと操業してるんだろうか。単にカモネギになっているだけじゃないかという気がしてならないのだが…。

 

『謎の独立国家ソマリランド』で私が書いているように、ソマリアの海賊は9割方が事実上の独立国家「プントランド」から出陣していた。海賊の原因が「貧困」だと言う人が昔も今もいるが、それも単なる固定観念にすぎない。

貧困者が海賊をやるなら、世界中の海で海賊が跋扈していることになる。そしてそんなことは全然起きていない。

他の大多数の貧しい国でも海賊がいないのは、そこの政府が取り締まるからだ。そして、なぜプントランドに海賊がわんさかいたのかというと、プントランド政府が黙認していた、もっと正確にいうなら利益を共有していたからだ。前に私がこのブログで「プントランド政府と海賊は、国土交通省と道路公団みたいなもの」と書いたとおりだ。プントランドの基幹産業は「海賊」だったのである。最近はそれができなくなり、別の産業(貿易や土地開発とか)に移行しつつあるだろう。

ふつうの土地になりつつあると思うかも知れないが、でも外国人が行けば、今でもすぐに拉致されると思う。

そもそも海賊は、陸で拉致をしていた人たちが、海でも同じことを始めたというのがソマリアの海賊の起源だと私は推測している。

別に「拉致=犯罪」というわけでもない。ワ州でのアヘンと同様、善悪は場所によってちがう。

「拉致」とは何か。かつて「不倫は文化」と言った人がいたように、拉致もソマリの文化なのである。

それについては来週の「クレイジージャーニー」で放映されるんじゃないかと思う。(私は収録のとき話したけど、どこまで放映されるかわからない)

海賊と拉致についてもっと知りたい方は『謎の独立国家ソマリランド』と『恋するソマリア』をお読み下さい。

 

 

関連記事

no image

ソマリランドで今、話題になってること

今、やっと日本でもソマリアの飢饉がニュースになってきたようだ。 では、こっちではどうかというと、ほ

記事を読む

no image

溝口敦『暴力団』は入門書にして名著

タイトルからして素晴らしい。溝口敦の『暴力団』(新潮新書)。 「暴力団のいま」でもなければ「ヤクザ

記事を読む

no image

ワット・パクナム日本別院

「おとなの週末」で始まる連載記事の取材で、 成田にあるタイ寺院「ワット・パクナム日本別院」を訪ねた。

記事を読む

no image

また「テレビみたい」と言われるんだろう

日曜日の朝刊のテレビ欄で知ったのだが、 「ウルルン」の後番組として「地球感動配達人」とかいう番組がは

記事を読む

no image

津波の子ども

 津波で両親が行方不明になった子どもについての緊急メールがまわってきた。  添付された写真を見る限り

記事を読む

no image

超残虐な村上春樹?!

なぜ、こういろいろやらなきゃいけないときに限って、こんな凄い本に連続してひっかかってしまうのか。

記事を読む

no image

私が原稿を書けないワケ

今週は原稿を一行も書けていない。 毎日パソコンに何時間も向かっているのに。 もともと苦しまずに原稿が

記事を読む

no image

判断能力の急激な低下

うーん、参った。 内澤さんの話、何も問題なかったのか。 これでは私がただ赤っ恥をかいただけではない

記事を読む

no image

気仙沼産かじき

土曜日、スーパーに買いだしに行ったら、気仙沼産のかじきの切り身が売っていた。 しかも半額。 買ってき

記事を読む

no image

衝撃の超人たち

どこへも行かず、誰からも連絡が来ず、飲み会もない平和な日々が続いている。 お盆+オリンピックはほんと

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • 今まで野村監督に特に興味がなかったんですが、加藤さんの本を読んで、すごく好きになりました。人間味にあふれた策士というところ、でも言うことは決して奇をてらわないとか。あと、やっぱりサッチー、スゴい(笑) https://t.co/FrRQVs2IX8 ReplyRetweetFavorite
    • あ、そうだったんですね。名監督の知られざる一面を描いているし、著者ご本人の青春記風でもあり、『嫌われた監督』を彷彿させました。落合夫人とサッチー夫人もよく似てるし(笑)いや、面白かったです。 https://t.co/66kmDl74FN ReplyRetweetFavorite
    • 先月から自分の単行本原稿が佳境に入り、読書が全くできなくなっていた。他人の文章が頭に入らない。なんだけど、今日一息ついたあとで、なぜか加藤弘士著『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)を一気読みしてしまった。あまりにも自分の仕事と関係がなかったのがよかったのかも。 ReplyRetweetFavorite
    • 単行本を一冊書くのはエベレスト登山にも似ている。頂上に近づけば近づくほど一歩進むのが辛くなる。でもようやく『イラク水滸伝』本文の最終稿を書き終えた。あとはエピローグと参考文献、写真のセレクト、地図の作成、ゲラ校正、専門家への確認……頂上までまだけっこうあるな…。 ReplyRetweetFavorite
    • 文庫1位が久生十蘭!そそられる!! https://t.co/OWK4Bvakwo ReplyRetweetFavorite
    • RT : 本当に良かった。 傍聴していた知人によれば、「著しく正義に反する」という強い表現で無罪が言い渡たされたとのこと。つまり、リンさんの孤立出産での死産を罪に問うこと自体が正義に反するとの判断。 これを機に、日本に暮らす全ての女性の妊娠・出産・選択の… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 崩れたとき生きるすべがなくなる。はずれたものを生息する余地をとっておくこと。中心と周縁。クリエイティビティはいかにして生まれるのかについては、秩序にあわない変なものを見つけ、探しにいく勇気、変なものをみつける臭覚のことなど。理系文系の枠を超… ReplyRetweetFavorite
  • 2023年3月
    « 3月    
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
PAGE TOP ↑