*

日本人はサッカーをビルマ人から学んだ

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

二週間前くらいだろうか、電車に乗っていたら突然、啓示が下りた。
「スローに生きよ」
そういう声が聞こえた。
以来、私は今までのようなせっかちな生き方をあらため、スローに行きようと決意した。
ところが、その啓示をきっかけにするように、早急にやらなければいけないことが山のように
押し寄せ、プールに行く時間も思うようにとれない。
スローどころではない。
天もせっかく啓示をよこすなら、私の条件も整えてほしいものだ。
そんなわけで、ブログの更新もままならない。
先週、木村元彦さんと神楽坂で飲んだ。
会って早々、「サッカーはアジア、アフリカの話をエンタメとして伝えられるから
いいですよねえ」と言ったら、
「たしか、日本人に最初にサッカーを教えたのはビルマ人でしたよ。それ、やったらどうです?」と言われ、びっくりした。
帰宅してネットで調べると、大正時代、チョウ・ディンというビルマ人留学生が
日本人にサッカーを教えていた。
サッカー自体はすでに日本に存在したが、それまで日本人選手はヘディングの存在も知らなかったし、パスが何であるかも知らなかったという。
そこから教え、角度がないところからのシュートがなぜ難しいのか三角法を用いて説明したりし、
日本人選手に「ああ、サッカーというのは考えてやる知的なスポーツなのだ」と理解させたという。
このビルマ人が日本人にサッカーの手ほどきをしたといっていい。
もう一つ驚いたのは、彼が最初に教えたのは、早稲田高等学院(当時「早高」と呼ばれていたらしい)。
彼のコーチングのおかげで、早高は全国大会二連覇を飾る。
この「早高」は私の母校である。
チョウ・ディンがどんな人かはよくわかっていないらしい。
これだけサッカーの知識があり、頭もよい人なら、ビルマで何か足跡を残していてもおかしくないと思うのだが。
ちなみに、ビルマのサッカーはかつてはかなりレベルが高かったらしい。
旧イギリス領という背景があったからだろう。
昭和三十年にはビルマの選抜チームが来日し、話題になった。
その新聞記事を見て、私がお世話になっているD先生はビルマ・チームを追いかけ、
選手の一人から留学の道を教えてもらった。そして日本人初のビルマ留学生となったという。
D先生によれば、そのサッカー選手はなぜかその後、コメディ映画でブレイクし、
映画俳優になってしまったという。
この辺のよくわからない展開はビルマ(ミャンマー)らしい。
木村さんによれば、かつての「満洲国」の国技はサッカーで、FIFAにも加盟しようとしたが、
傀儡政権のため認められなかったという。
いわゆる「五族」の中では朝鮮族がダントツに上手かったなんて話も伝わっているらしい。
そのほか、友人の二村さんによれば、戦後、日本が国際スポーツ界から閉め出されていたとき、まず先に手をさしのべ、サッカーの試合をしてくれたのがマレーシアだったと言う。
日本人に初めてサッカーを教えたチョウ・ディンをはじめ、
日本とアジア諸国のサッカー、スポーツの関係は意外に知られていない。
だいたい、なんでも欧米からやってくると思われているし。
この辺を調べてみたら、けっこう面白そうだ。
まあ、私はスローな人生を目指しているし、その前にやることが死ぬほどあるので、
いつになるかわからないが、そのうちやってみたい。

関連記事

no image

Bhutan ni tsuita

Ottoi Bhutan ni tsuita. Sono hi wa hareteite yokat

記事を読む

ギラギラと輝く船戸ワールドの原点

知り合いである大学の先生が仕事の忙しさを「まるで障害物競走のよう」とたとえていたが、 私もまさ

記事を読む

no image

大家のおばちゃんには誰も勝てない

日曜日、「野々村荘」の大家のおばちゃん宅で宴会をした。 久しぶりに会うおばちゃんは齢83という高齢で

記事を読む

no image

民族問題とイスラムはダメなのか

こんな写真が出てきた。 うちには至る所に本があるが、ダルマはそれをいたずらすることは滅多になかった

記事を読む

no image

別ジャンルで2つ上がる

「本の雑誌」2008年1月号が届いた。 2007年度ベスト10に『怪獣記』が6位にランクイン。 昨

記事を読む

no image

花と兵隊

タイ・ミャンマー国境に今でも住んでいる元日本兵(未帰還兵)を撮った ドキュメンタリー映画「花と兵隊」

記事を読む

no image

『メモリークエスト』見本とどく

初めてのことだが、2日連続で新刊の見本がとどく。 今度はお待ちかね、『メモリークエスト』。 カバー

記事を読む

no image

私の名は紅

前から気になっていたケン・フォレットの世界的ベストセラー『大聖堂』を読み始めたのだが、 物語はとく

記事を読む

no image

今、モガディショです

今、ソマリアの首都モガディショにいる。 昨年8月と比べると、格段に街が明るく、陽気な雰囲気に包まれて

記事を読む

no image

白骨になっても大丈夫

先日山形に行ったとき、山形大法医学教室の梅津和夫先生にDNAの検査をしてもらった。 口の中に綿棒を突

記事を読む

Comment

  1. しん より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 5.1; rv:10.0) Gecko/20100101 Firefox/10.0
    サッカー好きな人間としては、是非その辺をそのうちやってください。

  2. 落合清司 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Win64; x64; Trident/5.0)
    緬甸勉強会には、すっかりご無沙汰しております。私が出しておりますミニコミ誌の『バダウ』で、日本サッカーの父、として、このウ・チョーディンについて特集しました。特に、ビルマへの帰国後について、3年ほどかけて調査をし、現時点で分かっていることを記事にしました。もしご興味があればご連絡ください。お送りします。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑