ゲバラと私はどこで道を違えたのか?
公開日:
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」を見た。
若き日のチェ・ゲバラが友人と一緒に南米を旅する話と聞いていたが、見たら若き日の高野秀行そっくりだった。
ちゃんとした準備はまるでなし、「行きたい」という情熱だけでスタートする。
行く先々ではアクシデント続出。へんな場所でキャンプしようとしたらテントが風に飛ばされるわ、ヤバイ女にひっかかるわ、意味もなく凍える湖に飛び込むわ、バイクは壊れるわ。
いろんな人に世話になる(ときどきはタカリそのもの)いっぽうで、そこかしこで、貧困や差別、社会の不平等に義憤を募らせる。
しかし、同情する相手に「あんたがたは何してるのか?」と聞かれると答えられない。
気ままに旅している学生だからだ。やがて義憤は自分にも向けられる…。
みんな私が体験したことがあるものだ。 ほんと、そのまんまって感じ。
探検部のありふれた活動風景といってもいい。
場所もアマゾンやアンデスのシーンが多く、私にとっては懐かしい光景が続く。ふつうの観客にはエキゾチックなのかもしれないが、私にはノスタルジーである。
では、ゲバラと私はどこで道を違えたのだろうか? 謎である。
正直言ってこのフィルムを見るかぎり、ゲバラは革命家にはなりそうもない。誠実な医師として、貧しい人たちのためのクリニックをジャングルの片隅で開くか、さもなければ売れない辺境作家になるかって感じ。
「ぴあ」のアンケートでは、最近の映画としては「見終わったときの満足度」が1位らしいが、みんな、どこに感銘を受けるんだろう?
やっぱり主人公がイケ面だというところか?
私は旅がまだ「旅」である時代に感銘を受けた。ガイドブックも、ゲストハウスも、観光客も、観光客狙いの詐欺師や物売りもいない旅。もう今は辺境のごく一部にしか存在しない旅。
やっぱり私が感じるのはノスタルジーなのだった。
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「どこで道を違えたのか?」
この点については私も日々感じながら過ごしています。探検歴では高野君に遥かに及ばないながら,「人生は探検だ!」,「自分の限界は自分が考えているよりも遠くにある」を座右の銘にしつつ生きている私が,文部科学官僚としてはや3年半…。常勤の職としては最長不倒距離を既に達成し,記録更新を続けています。とほほ…。。そんな私にとって,高野君はあこがれの存在でもあります。このホームページが,高野君のさらなる飛翔のきっかけになればいいですね。私も新たな飛翔のための努力は続けます。まっ,それはそれとして,近いうちにまた飲みましょう。
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私はアンデスの景色を自分の目で見たことはありませんがこの映画では栄枯盛衰のような哀しさを感じました。
高野さんはノスタルジーを感じたのですか?日本人なのに異郷の地には思えないような場所なのかなあと、違う興味が沸きました。
私は他の人ほどこの映画から強く感銘を受けたわけではありません。
が、カリスマ性をもともと持っている人間がたまたま得た思想によって「チェ・ゲバラ」という人間が形成されたんだという、偶然のような必然のような歴史的事実に感動しました。
巧く言えませんが・・・演じた彼がハンサムだったからではありません(笑)