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溝畑宏とイビツァ・オシム

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


木村元彦作品読書週間が続いている。
次に読んだのは『溝畑宏の天国と地獄 大分トリニータの15年』(集英社)
サッカー音痴の私としては大分トリニータといえば金子達仁『秋天の陽炎』(文春文庫)である。
日本のスポーツ・ノンフィクションは8割くらいが「ナンバー文体」とでも呼ぶべき文体で書かれている。沢木耕太郎みたいな文体だ。
私はこの文体に飽き飽きしているが、金子氏のこの作品はとてもよかった。
それだけにその大分トリニータが、一人の若いエリート官僚の野心によって生まれたということに驚いた。
大分県民のトリニータへの関心は初期はおそろしく薄く、ホームの試合に27人しか入らなかったこともあるという。
そんな場所に溝畑氏は自分が「W杯を呼びたい」というためだけにJのチームを作ってしまう。
デタラメにもほどがあるが、それがのちに「秋天の陽炎」に描かれるような数万のサポーターを生み出してしまう。
本書の冒頭、ある女性サポーターが溝畑氏に対して「土下座してほしい」と憤るシーンがあるが、その女性は溝畑氏がデタラメをやらねければトリニータのサポーターになりえなかった。
「善悪」を深く考えさせるという意味では斉藤一九馬『歓喜の歌は響くのか』(角川文庫)にも通じる。
実際、二つの話には共通点が多い。
後味は決してよくないが、面白いどころでない面白さだった。
しっかし、日本の営業は裸になって接待すれば仕事がとれるのだろうか?
それが本書を読んだあとに残った最大の疑問だ。
口直しにといってはナンだが、木村さんの名著『オシムの言葉』(集英社インターナショナル)を読み直す。
サッカー音痴の私でもオシム監督のすごさはよくわかり、Jリーグには全く関心がないくせに日本代表は応援するというありがちな日本国民の一人として、
「この人が代表監督をあのまま続けていたら…」と思わずにはいられない。

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続いてノンフィクション。 1位〜3位 木村元彦『悪者見参』『誇り』『オシムの言葉』(集英社文庫)

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Comment

  1. may より:

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    高野さんの口から我がトリニータの話題が出るなんて・・本当に感無量です。
    溝畑さんが裸になるのは接待というより、自分が脱ぎたいからやっているだけです。○○○で馬刺事件など単行本で書かれていないエピソードもあるんで木村さんに会った際には聞いてみるとおもしろいと思います。

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