本当の本物は深海で弾ける
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最終更新日:2013/10/01
高野秀行の【非】日常模様
いろんなことがありすぎて、ブログを書く暇がない。
ここ数日の出来事を簡単に羅列してみましょう。
まずはお知らせから。角幡唯介と公開対談をします。
以下、web本の雑誌の告知を貼り付けた。
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第35回講談社ノンフィクション賞を同時受賞された高野秀行さんと角幡唯介さんによる公開対談が開催されます!
早大探検部出身同士のお二人による辺境探検話。果たして話はどこへ行き着くのか。乞うご期待!
日時:10月11日(金)19時〜
会場:芳林堂書店高田馬場店8階
東京都新宿区高田馬場1-26-5 FIビル
定員:70名
参加費:1000円
申し込み方法:芳林堂書店高田馬場店3階予約カウンターにて受け付けております。
電話による申し込みはこちらまで→TEL03-3208-0241 芳林堂書店高田馬場店(代)
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20日(金)
文芸界のおしゃれ番長、ジュンコ・ウチザワ先生に連れられ、銀座に受賞式の衣装を買いに行く。
スーツを一着も持っていないし、ネクタイも結べないと言ったら、同行の杉江さんに「奇跡の47歳」と呼ばれる。
ダンヒル(どうしてライターのメーカーが服も作ってるのか?)、バーバリー、ボス、バーニーズinニューヨークなど、
未知の世界をさまよう。
おかげでスーツは買えた。でも直しがあり、一週間後に取りに来なければならない。
こんな魔界に、一人で来られるのか?
21日(土)
映画の配給会社からソマリ語の仕事を依頼される。内容は翻訳でなく、カタカナに直すこと。
世の中には不思議な仕事があるものだ。
22日(日)
「新潮45」で新潮ドキュメント賞の選評が掲載されていた。
『謎の独立国家ソマリランド』はおおむね絶賛されていてまるで受賞したかのよう。
ノンフィクション界の大御所・保坂正康氏は「著者のこのエネルギーはどこから来るのだろう、と感動する」と述べており、
私はこの言葉に感動してしまった。
多くの選考委員が挙げているソマリランド本の欠点は「長い(ページ数が多い)」ということ。
冗談のようだが、それくらいしか欠点がなかったらしい。
受賞できなかったが、勘弁してやるか。
23日(月)
本年度のノンフィクション暫定1位候補がまた出現した。
高井研『微生物ハンター、深海を行く』(イースト・プレス)。世界トップレベルの研究者が
生命の起源を探るため、深海艇に乗り込み、「冒険」を続ける。
しかし、その筆致はタマキングや椎名誠がさらにおちゃらけたよう。
目次を見るだけでもすごくて、
第4話 JAMSTEC新人ポスドクびんびん物語
第6話 JAMSTECの拳――天帝編――
(註:JAMSTECとは独立行政法人・海洋研究開発機構のこと)
など、およそ真面目に書かれた本とは思えない。
(1969年生まれであるため、話題もやや古い。私にはドンピシャであるが…)
しかし、実際に読んでみれば、これほど真剣な男の話はない。
「ヘンな未知の生物を絶対に見つけてやる。それで生命の起源の謎を解き明かす!」
と本気で人生をかけているのだ。しかも世界でその謎に最も肉薄している!!!!
青春記としても最高で、これまで私が読んだ「世界クラス青春記御三家」である、
小澤征爾『ボクの音楽武者修行』、藤原正彦『若き数学者のアメリカ』、植村直己『青春を山にかけて』と肩を並べる。
タイトルはイマイチだし、なぜか青いインクで印刷されてるし、このおちゃらけた文体だし、
たぶん良識ある人々には訴えないと思うが、本当の本物はこんなところに潜む、というか弾けているのである。
まるで著者が追い求める深海熱水の微生物のように。
そのうちどこかの雑誌か新聞でこの本について書くことになるだろう。
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Comment
高井研さんですか。
お名前はかねがね。
お仕事からすると広島大学の長沼 毅准教授と接点がありそうですね。
いいなぁこういう本物の研究者は。
ちなみに熱水環境に生息する極限環境微生物は
耐熱性酵素開発の重要なネタでもありますので、
日本の温泉は結構海外企業のターゲットになっているそうです。