*

愛と追憶の帰国

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

別にタイトルに深い意味はない。いつものように普通に帰国しただけである。

といっても、今回の旅はせいぜい40日程度なのに妙に長く感じた。
移動が多かったせいでもある。

まず、ロンドンに行った。私は英語圏に行ったことがほとんどない。
25年前、南米へのトランジットでLAに計一週間滞在しただけである。
だから、英語圏でしかも大都会というのに強烈なインプレッションを受けた。
もっとも、ロンドンでも大半の時間をソマリ・カフェとかソマリ・レストランとかカート居酒屋で過ごしていたから、
どのくらい普通のロンドンを堪能したか怪しい。

次にフランス。これまた25年ぶり。しかもパリは経由しただけで、
トゥールーズという地方都市に行き、難民になっているルワンダ人の友人を訪れた。
フランス語圏だし、ルワンダというアフリカ中央部のキリスト教圏であるが、
彼らの話を聞いていると、イギリスのソマリ人とそっくりだった。
家庭、恋愛、仕事、望郷の複雑な思いなどなど。
10年ぶりにルワンダのソンベ(キャッサバの葉っぱを煮込んだ料理。コンゴではサカサカと呼ばれる)や
ウガリ(トウモロコシの粉を練った主食。コンゴではフーフーと呼ばれる)を食べたのが嬉しかった。

で、またいったんロンドンに戻り、一泊してから、今度はイスタンブルとジブチを経由して、ソマリランドの港町ベルベラへ。
今首都ハルゲイサの空港の新築工事を行っているため、ソマリランド発着の便はすべてハルゲイサから車で3時間も離れたベルベラの空港を利用せねばならず、
どうにも不便だったが仕方ない。
ハルゲイサでは、選挙も真っ最中で、日頃は暇な人たちも妙に忙しそうだった。
もちろん忙しくてもなんでも葉っぱはバリバリ食っていた。
今回はソマリ家庭料理の取材もした。別にどこかで発表するという予定もなく、ただ趣味である。

最後にソマリア。
初めは行くつもりはなかった。ただ日本にいるソマリ人留学生のサミラに「実家にお土産を届けてほしい。そして実家からお土産をもらってきてほしい」と頼まれてしまった。
つまり、単に「クーリエ(運び屋)」としてモガディショに行ったのである。
ところが、全く不可解な経緯から、私はイスラム過激派アル・シャバーブとアミソム(アフリカ連合の多国籍軍)の前線基地に連れて行かれてしまい、
帰りにはアル・シャバーブのアンブッシュ(待ち伏せ攻撃)に遭い、めっためたに撃たれた。
私は装甲車に乗っていて幸い無事だったが、目の前でランドクルーザーにロケット弾が打ち込まれて炎上、運転していた兵士はあわてて脱出するも被弾。
血だらけになってこっちの車に飛び込んできた。
まるで「プライベート・ライアン」とか「フルメタル・ジャケット」みたいな戦争映画を観ているようで、
あまりの非現実さにぼんやりしてしまい、恐怖心もさして湧かなかったほどだ。
なぜ単なるクーリエが戦場に行ってしまったのか、いまだに解せない。

おかげで、帰りのフライトに乗り損ない、ロンドンから東京へのチケットはパー、水泳大会にも出られなくなってしまった。
リレーのメンバーだったのに、本当に他の選手のみなさんには申し訳ないことをした。
で、わざわざチケットを買い直して東京に戻るのも芸がなかったし、心身ともに疲れ果てていたので
急遽バンコクに進路をとり、何日か昔の友だちとうまいものを飲み食いして、
先週の木曜日に帰国した。

もちろん、いつものように、家に帰るとやらねばならないことが山積している。
しかし、何と言っても、最優先は2月18日に発売予定の新刊『謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』(本の雑誌社)の準備だ。
まだエピローグを書いていないし、年表や参考文献、地図、写真など、やることはたくさんある。
この本は『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』以来の勝負作だ。
どうぞお楽しみに。

ブログのコメントやメール、ツイートなどになかなか反応できないかもしれませんが、どうぞ了解いただきたいと思います。
ちゃんと目は通しています。

関連記事

no image

なぜか妻が…

なぜか妻がブータンへ行ってしまった。 今までブータンなど話題にもしたことがなかったのに、五月のある日

記事を読む

no image

八丈島での発見

一週間、八丈島に行っていた。 浜辺のキャンプ場にテントを張ったが、なにしろ起伏に富んだ地形なので徒歩

記事を読む

no image

アジアン・ミステリの傑作シリーズを応援すべし

旅に出る前に紹介しておかなければならない本はないかなと考えていたら、肝心なものを忘れていたことに

記事を読む

no image

「メモリークエスト」は奇書になる

「メモリークエスト」を担当する幻冬舎の編集者2人と打ち合せ&お疲れ様会。 この一ヵ月、頭がどうかし

記事を読む

no image

ソマリの海賊に実刑判決!

ソマリの海賊裁判。 世間的には微妙に話題になっているこの裁判、私は一回だけ傍聴することができた。

記事を読む

no image

エンタメ・ノンフ座談会

火曜日、『本の雑誌』の特集で座談会に参加。 テーマは「緊急座談会 エンタメ・ノンフの棚を作れ」。 私

記事を読む

no image

ひそやかな花園

友人と午後1時に品川駅高輪口に待ち合わせだったのだが、 こういうときにかぎって30分以上も前に着い

記事を読む

no image

有給の旅人たちとユーフラテス

明日からトルコとシリアへユーフラテス河を見に出かける。 来年、ユーフラテスをカヌーか筏か何かで下り

記事を読む

no image

超絶技巧!!

 私は現代アートというものが苦手だ。どうしても「意味」を探さなければならないという強迫観念にさらされ

記事を読む

no image

朝までカラオケ

4年ぶりに会った後輩と下北沢で飲んでいたら 後輩の終電がなくなり、 朝までカラオケボックス。 カラオ

記事を読む

Comment

  1. コシチェイ より:

    …!何で撃たれるの?!高野さんを襲ったわけじゃないでしょうけど…

  2. みどり より:

    高野さん、お帰りなさい。
    銃撃されたなんて… 思わず想像してしまって…もう本当に本当にご無事で何よりです‥。
    高野さん、本の発売楽しみにしてます!体調にお気をつけて頑張って下さいね。

  3. 百草の薬 より:

    先日はご丁寧に返信いただきありがとうございます。
    最高のお酒のつまみ「移民の宴」、やっぱりスタートはタイでした(笑)。
    勝負作も楽しみにしています。

  4. ンドキ より:

    命拾いな体験をサラッと流す高野さんはやっぱり傾奇者!面白すぎますよ。

  5. はとさぶろう より:

    あまり関係ないお話で申し訳ないのですが、12月22日〜1月18日の期間中、オーディトリウム渋谷で「駆ける少年」というイラン映画が上映されます。

    館内には監督のアミール・ナデリさんが毎日在駐し、常に観客の人と対話する予定です。ナデリさんは、映画狂でクッキーが主食のとても温かい人です。最新作「CUT」は素晴らしい映画でした。
    お時間があれば是非ご鑑賞下さい。

  6. yanagiswa より:

    高野さん、お疲れ様でした。
    ご無事でなによりです。
    勝負作早く読みたいので、ここからもうひと踏ん張りがんばってください。
    楽しみにしてます!

百草の薬 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

  • 2022年11月
    « 3月    
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    282930  
PAGE TOP ↑