私の名は「ヒダヤットゥラー高野」
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
昨日のカロメに続き、連日のサプライズである。
数日前、在日外国人関係の取材で、在日パキスタン協会の会長という人のお宅を訪ねた。
すごく忙しそうな人だったので(前日はドタキャンされたし)、ご機嫌をとるつもりで、「アッサラーム・アライクム」とイスラム式の挨拶をした。
さらに「アッラーのほかに神はなし。ムハンマドは神の使途なり」と唱えてみた。
頭にハッジ(メッカ巡礼経験がある人)を示す白い帽子をかぶり、長くて白い顎鬚をたくわえた会長はたいへん喜び、流暢な日本語で「あなたはムスリムですか?」ときいた。
「いいえ、ちがいます」と答えたが、会長は聞いていないようで、
「あなたのイスラムの名前は何ですか?」
「いえ、そういうのはありません。私はムスリムじゃないので…」
すると、会長は「じゃあ、私があなたにイスラムの名前をつけてあげましょう」といった。
会長は私の名刺を見ながら、「いい名前が浮かびました」と確信に満ちた顔で答えた。 そして会長がひねりだしたのが「ヒダヤットゥラー」だった。
聞いたことのないイスラム名だが、「神のお導き」を意味するという。
私の下の名前がヒデユキだから、それに似たものをわざわざ考えてくれたらしい。
「今日からあなたはムスリムです」と会長は私の肩を叩いて微笑んだ。
それから約一時間、会長は(どうも日本の全ムスリムをこの人が束ねているらしい)私にとうとうとイスラムの教えを説いた。
それからようやく本題の在日ムスリムの取材に入り、それが終わってからまたコーランを広げて講義が再開、結局、多忙の会長のお宅を出たのは三時間後だった。
「また会いましょう、ヒダヤットゥラー!」と会長は言った。
その日はそのまま、知り合いの女性編集者2名と夜中の二時まで飲んでしまった。
いきなり、ムスリム大失格である。会長が知ったらたいへんなことになる。
といっても、冷静に考えれば、私はムスリムでもなんでもないのだが。
そして、今日、日曜の朝っぱらから電話がなり、ファックスが流れてきた。
英語で書かれた結婚式の招待状だった。
会長の長男が来週、結婚式をあげるので来てほしいとのことだ。
数日前、一度会っただけなのに、どうして?
それとも、日本にいるムスリム全員を招待してるのか?
ていうか、何回も言うが、私はムスリムじゃないんだが…。
(と、ヒダヤットゥラー高野は思った)。
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始めまして。イスラームでは、信仰告白(アッラーのほかに・・・というあれです)をするだけで信徒になれるんだった気がします(^^;)適当すぎないか?と思ったりしますが・・。会長さんは誤解しちゃったんでしょうね・・(笑)