*

趣味は「辺境料理」に決定

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様


先日「公募」もした私の「趣味」がやっと決まった。

「辺境料理」である。

私はチェンマイで、昔の友だちの実家を訪ね、シャン料理を習った。
スタイルは「移民の宴」とまったく同じ。
料理上手な人を見つけて、一緒に市場に買い物に行き、家で料理の作り方を教わり、
最後にはみんなで一緒に食べる。

この方法はひじょうにおもしろいと改めて実感した。
まず、地元の人たちが喜んで教えてくれる。
料理も言葉と同様、民族のアイデンティティなので、外国人が習いたいというのはとても受けがいい。

女性と親しくなれるというのもポイント。
アジア、アフリカではたいていどの地域でも男が前に出ていて、女性は後ろに下がっている。
私が男なだけに、とりわけそうなりやすい。
だが、キッチンに入れば話はまったく別。
そこは女性の世界。急に彼女たちの顔が自信にみなぎり、私に向かって「あー、そんなやり方じゃダメ」とか
「鍋に入れる前に水につけとくの。臭みをとるため。あたしの言ってること、わかる?」と先生口調で諭してくれる。
ソマリランドで料理を習ったときもそうだったし、シャンでも同じ。

そのあとで、できた料理を一緒に食べれば、その家の人たちとの親しみ方も
現地料理の理解も桁違いに深まる。楽しく、おもしろく、美味しい。

なにより、そのレシピを日本で再現すれば、主婦である私はたいへんに助かる。
そうだ、これこそ一石二鳥の趣味だ!と気づいたのだ。

すると、奇しくも翌日、ブログにこんなコメントが寄せられていた。
Silent spiceさんという人。

//////////////////////////////////////////////////////////////////
海外への取材時での現地料理のレシピ収集及び研究など如何でしょうか?
私観での趣味なのですが
トマト、唐辛子、ジャガイモの三種の作物は南米産なのにも関わらず
今現在、世界各国の料理に広く深く浸透していると思うのです。
中央アジアでのトマト、鎖国状態が永かったブータンの更に
僻地にまで浸透している唐辛子、ネパールでのジャガイモ栽培
アフリカでもトマトを食べる地域と余り食べない地域。など
其々の作物の拡散経緯を政治、宗教の変遷を絡めてみると中々に興味深いと
思うのです。と云いますか、其処に高野先生の着想、妄想が加わった。
そんな本が読みたいですw しかも主夫としての料理スキル向上のオマケ付き。
如何でしょうか?

///////////////////////////////////////////////////////////////

まあ、あくまで「趣味」なので、本を書くとかどうのは今は考えないけれど、
方向性としてはまさにその通り。

昨日、早速習ったシャン料理のうち、杵と臼を使わないレシピを再現してみた。
(杵と臼はネットで注文したところ)
「シャン風肉団子」と「トナオ(納豆)揚げ」。

肉団子はクミンを入れすぎたためか、トルコのキョフテみたいな風味になった。
トナオ揚げはフライパンの温度が低すぎて、あまりパリッとしなかった。
とはいえ、珍しいものにはちがいないし、ビールのつまみにピッタリだし、
妻も喜んでいたので、主婦としては成功と言っていいだろう。

シャン料理については、今年も引き続き研究したい。

         ☆           ☆            ☆

『謎の独立国家ソマリランド』発売まであと1日!

関連記事

no image

舟を編む

何とは言わないが、ひどい小説を読んでしまい、 「とにかく上質な作品で口直ししたい!」と本屋の棚を彷

記事を読む

no image

趣味がほしい

毎年のように新年になると「趣味がほしい」と思う。 そう切実に願う理由は二つある。 昔、私の趣

記事を読む

no image

月刊日本語

日本語教師やそれを目指す人向けの雑誌「月刊日本語」(アルク)のインタビューを受ける。 担当の編集者

記事を読む

no image

英訳「突破者」を外国人はどう読む?

なんとなくアマゾン書店の洋書コーナーを眺めていたら、 おもしろい本をみつけた。 宮崎学「突破者」の英

記事を読む

no image

ダウン症ドラマーのドキュメンタリー映画「タケオ」

飯田基晴『犬と猫と人間と』『あしがらさん』、土屋トカチ『フツーの仕事がしたい』と、 観た映画がすべて

記事を読む

no image

『誰も国境を知らない』

西牟田靖『誰も国境を知らない』(情報センター出版局)の書評を 「北海道新聞」に書く。 新聞の書評は

記事を読む

no image

発売が悲しい

まる一日かけて、『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫で1月8日発売予定)の 校正と、「文庫あとがき

記事を読む

no image

おすすめ文庫王国2010

この前のエンタメノンフ忘年会で杉江さんに「おすすめ文庫王国2010」をいただいたので それを読んで

記事を読む

no image

『ワセダ1.5坪青春記』韓国でヒット中

ソウル・ショック第2弾は、私の本の韓国語版『ワセダ1.5坪青春記』が 発売たった2ヶ月で3刷りにな

記事を読む

no image

月刊日本語

昨日あたり発売になった「月刊日本語」の巻頭インタビューに私が登場させてもらっているが、 それとは別

記事を読む

Comment

  1. hu より:

    馬場に二軒くらいシャン料理屋があるけど、おいしかったです。
    季節には竹虫もでるし。
    いつかお店を出してください。内澤旬子さんと一緒に。
    日本がダメならチェンマイでゲストハウス件ソマリ料理屋を。
    ハルゲイサにゲストハウスを作ってシャン料理でもてなす、というのもアリではないでしょうか。あ、でも豚肉はだめか…。

  2. サラミ より:

    ブログでレシピを紹介してくださいね!アバウトじゃなく詳しくお願いします(笑)

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年10月
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
PAGE TOP ↑