*

書店員の書いたプロレス&格闘技ミステリに感涙

公開日: : 最終更新日:2013/03/06 高野秀行の【非】日常模様


大阪の書店でトークイベントを行ったとき、すごく変わった人に出会った。
書店員なのだが作家でもあるという。
しかも、プロレスと格闘技をテーマにしたミステリを書いているという。

ええーっ!という感じだ。

私は、かつてプロレスと格闘技に熱中し、ミステリファンでもある。
プロレスをテーマにしたミステリはないことはないが、実に少ない。
それを専門に何冊も書いている作家なんて聞いたこともなかった。

「ここで売ってますか?」と訊くと、ご本人が案内してくれた。
著者に案内されてその人の著書を本屋で買うというのはすごく変な感じだ。
しかもその人は文芸担当。つまり自分で自分の本を並べて売っているのだ。書店で。
自称作家が道端で自著を売っているのとはわけがちがう。

ご本人も「自分で自分の本を棚に並べたり、注文を出したりするのは恥ずかしい」と言っていたので
笑ってしまった。
たしかに、そんな人は日本広しといえどもこの人しかいないんじゃないか。

さて、読み始めるともう止まらない。
プロレス&格闘技ファンのツボを突きまくった内容だからだ。

正体不明のマスクマンらしき男が殺されたが、いかんせん正体が不明なので身元がさっぱりわからないとか、
ヒクソン・グレーシーをモデルにしたとおぼしき「世界最強の男」が控え室で誰かに素手で殺されたが、
世界最強の男を誰が一体殺せるのかとか、
嬉しくて口元がふふふと緩んでしまう。

正直、私には本書の客観的な評価はできない。
でも解説では『イニシエーション・ラブ』のヒットで知られるミステリ作家・乾くるみが
「私はプロレスにも格闘技にも一切興味はないが、本格ミステリとしてこの著者はすごくセンスがいい」と具体的に例を挙げて
褒め称えているところをみると、非プロレス&格闘技ファンにも十分おもしろいようだ。

全国の(元)プロレス&格闘技ファンのみなさん、伯方雪日『誰もわたしを倒せない』(創元推理文庫)をぜひお試しあれ!

          ☆             ☆             ☆

『謎の独立国家ソマリランド』、おかげさまで増刷になった。
Amazonのランキングでも急上昇し、今200位くらいだ。
ソマリランドの本が日本でが売れているとわかったら、世界中が驚くだろうなあ。

関連記事

no image

完璧な探検記

 わけあって、今さらながらアルフレッド・ランシング著『エンデュアランス号漂流』(新潮文庫)を読んだ

記事を読む

no image

お湯割をください。涙の数だけ

さまざまな困難を乗り越え、 イランでの「アルコールクエスト」を続けている。 イランに来て、やっと一週

記事を読む

no image

ツチノコ・ロケ

「未確認思考物隊」のロケで岡山の「ミスター・ツチノコ」滝沢さんに会いに行く(写真:左)。 20年間、

記事を読む

no image

文学じゃないが

少し声らしきものが出るようになったが、まだ人間のものとは思えない。 今日の授業はいったいどうなるの

記事を読む

英国人の見たSMAP

内澤旬子さんと「日本の食」について話してほしいという依頼があり、 「そんなもん、俺に語れるのか

記事を読む

no image

舟を編む

何とは言わないが、ひどい小説を読んでしまい、 「とにかく上質な作品で口直ししたい!」と本屋の棚を彷

記事を読む

no image

編集力

本の雑誌の杉江さんが『辺境の旅はゾウにかぎる』のゲラをもってきてくれた。 エッセイ、対談、書評など中

記事を読む

no image

トルクメニスタン特集

毎回ディープな特集で楽しませてくれるバンコク発の特殊月刊誌「G-Diary」。 ちょっと遅くなって

記事を読む

no image

クリント・イーストウッドとモン族

一年ぶりにTSUTAYAでDVDを借りて、観た。 ウチザワ副部長がかつてブログで絶賛していたクリン

記事を読む

no image

この夏は「人間仮免中」

忙しい。仕事と雑務から逃げるように奄美に行き、まる五日、さんざん楽しんで帰ってきたら、しつこく彼らは

記事を読む

Comment

  1. キノコハンター より:

    ソマリランド、ようやく読了しました。ひじょうに面白かったです。
    増刷おめでとうございます。トータルでしっかり黒字になることを祈ってます。
    この本の潜在的な読者は欧米にも多いと思うので、英語でも出版したら、結構売れると思います。

  2. 高野 秀行 より:

    キノコハンターさん、ありがとうございます!
    英語は訳してくれる人がいないので難しいんです。
    たぶん、この本だと、全訳300万円くらいかかってしまいます。
    それから出版社に持ち込んで営業…という気の遠くなるような過程が待ってます。

    世界は欧米圏でぐるぐる回っているだけで、まだまだ遅れてますよね。

  3. 伯方雪日 より:

    ご紹介いただきありがとうございます!
    この他に、「死闘館」(東京創元社)、「ガチ! 少女と椿とベアナックル」(原書房)が出ています。よろしくお願いします!

  4. 民之助 より:

    この作家は人生が格闘の様相。

    かなり面白かったですね。格闘技あんまり見ないですが、
    それでものめり込みましたよ!。
    その後格闘技に興味持っちゃって、CSとかでチャンネルザッピングして
    格闘技番組とか見ちゃってます・・・。
    伯方雪日さん、新作も出ているので結構ネットでも盛り上がってますね。
    伯方さんを解説するサイトまで見つかってしまいました。
    http://www.birthday-energy.co.jp/

    どうやら今後こそ格闘して生きていく様です。
    何に格闘するかは、ちょっと分からないんですけどね。

高野 秀行 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年3月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    25262728293031
PAGE TOP ↑