爆笑ムエタイ武者修行
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
上智大学の講義、第4回のゲストは
元女子ムエタイボクサーで現在はムエタイエクササイズのインストラクター兼
フリーライターの下関崇子さん。
これまでのゲストは3人とも、最初からぶっ飛んでいる人だったが、
下関さんの面白いところはひじょうに「普通」であること。
普通に悩み、普通の決断を積み重ねて、でもなぜかどんどん普通でない方向に
行ってしまうのだ。
ムエタイを始めたのも「ダイエットしてキレイになって彼氏がほしい」という
若い女子としてこれ以上ないくらい普通の願望から
女子向けの軽いムエタイエクササイズを始めたのがきっかけ。
タイに渡ったのも「失恋」が原因の一つだったという。
それがいつの間にかバンコクのゴーゴーバーの特設リング
(お立ち台を即興でリングに仕立てたもの)で
ゴーゴーガールを相手にデビューしてしまい、
その後、2年間で数え切れないくらい試合をした。
「私ほどタイで試合をした日本人は男子も女子も他にはいないと思う」
とのことだから、凄い。
その経緯は著書『闘う女』(徳間文庫=本の雑誌おすすめ文庫王国2004ノンフィクション部門で
ベストテン入りしている)に詳しいが、
本人に直接聞くともっともっと面白い。
学生も女子が多いので、普段以上に共感をもって爆笑していた。
私にとっていちばん興味深かったのはムエタイと日本のキックボクシングのちがい。
日本のキックは「とにかく倒れないで頑張る」のが美徳とされる典型的なスポ根なのだが、ムエタイは「いかにきれいに技を出すかを競うゲームみたいなもの」で
そういうド根性ファイトはポイントに全く結びつかないルールになっているそうだ。
下関さんは最終的にタイのジムで一緒になったトレーナーの男性と結婚、
今ダンナさんは渋谷のキックボクシングジムでトレーナーをしているが、
仕事上でいちばんの悩みは日本のキックとムエタイとの「思想的ちがい」であるという。
お笑いの中にもちゃんと比較文化的視点が現れ、
実に充実した授業だったと本来、講師であるはずの私は思ったのだった。
関連記事
-
-
在日外国人支援ボランティア
世界中の人たちに二十五年もお世話になりつづけている。 そろそろ何か恩返しをしなければと思い、 在日ア
-
-
新年あけましておめでとうございます
昨年の出版界は、一般社会に輪をかけた未曾有の大不況だったようである。 その影響は直接間接に私のところ
-
-
「Brutus」にて“辺境小説”を紹介
現在発売中の「Brutus」1.1/1.16合併号の特集は「夢中の小説」。 私も「小説の世界で見つ
-
-
シリア・イラク国境地帯の驚異
ユーフラテス河沿いに進み、イラク国境近くの町にいる。 シリアの他の場所は砂漠ばかりだが、この河沿いだ
-
-
ここ数年最大の問題作か?
キャサリン・ブーの『いつまでも美しく インド・ムンバイのスラムに生きる人々』(早川書房)を読
-
-
写真の才能5%、四倍増計画
かつて「高野さんには写真の才能が5%くらいしかない」と友人の写真家G師匠に言われた。5%とは何の
- PREV :
- カレセン・アジアン・ミステリ
- NEXT :
- プロデュース業はじめました



Comment
AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)
先日は、どうもありがとうございました。
で、補足というか、タイで試合をした回数は、かなり多いですが、ほとんどの試合は草野球みたいな感じで、トップレベルで、もっとすごいレベルの試合に出てる人は、日本人でもいっぱいいます^^;。そう言っておかないと、みなさん私が最強のムエタイファイターのように誤解しそうなので(笑)。
本場に行くと、「本格的」という印象がありますが、じつは、ピンからキリまで層が厚いので、自分のレベルの試合相手がいっぱいいるというのがいいところなのかなぁ、と。
しかし、本の雑誌のおすすめ文庫に入っていたとは! 感激です。