*

原作を読もう!

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

映画「スラムドッグ・ミリオネア」を観てたまげた。
原作とまるっきりちがう話だったからだ。
スラム育ちの青年がクイズ番組で全問正解をなしとげ、
2000万ルピーを手にする、という設定は同じだが、
言い換えればそれくらいで、かぶっている話は全体の2割程度だろう。
だいたいスラムのインド人義兄弟が英語でしゃべってるもんな。
んなわけねーだろ!と突っ込んでしまった。
アメリカ人は字幕映画を見ないから、彼らも英語を話すことにしなければならないのだ。
原作でも主人公は英語を話す。
それは特別な経験を経ているからで、英語を話せるという特技があってこそ、
彼はクイズ番組出場までのしあがっていけたという物語でもある。
まあ、映画は圧倒的な映像の力があるのでインドに行ったことのない人には
訴えかける力は強いだろうし、インド人を主人公にし、インドのスラムを舞台にした映画が
アカデミー賞をとったことはおおいに評価できるからいいのだが、
映画だけの人はぜひ原作を読んでほしい。
巧みな複線が張られた秀逸なミステリでもあり(映画ではミステリ要素はゼロ)、
映画よりもっと悲惨で、もっと痛快でもある。
映画で情景が浮かぶようになっていれば、なおさら楽しめるだろう。
ちなみに、コメントに「鳥籠」の意味を教えてほしいとあったので簡単にお答えすると、
それは「家族と村」という意味です。
反体制的(犯罪であれ正義であれ)な行為をしでかすと一家が皆殺しにあったり
村八分になったりするから、誰も何もできないということです。

関連記事

no image

奇跡のリンゴ

ブームが過ぎたベストセラーほど、読む気にならない本もない。 でも今は在庫一掃読書。 石川拓治『奇跡

記事を読む

no image

なぜ小説を書かないのか?

早大探検部OB会<特別ホラー篇>みたいな催しがあり、 「もっと若手がほしい」とのことで40歳の私も召

記事を読む

no image

エッチな人々

知り合いから連絡があって思い出したが、『天職への階段』(扶桑社)という本が 10日ほど前に出ていた

記事を読む

no image

魔術的リアリズムのブラジルサッカー

アレックス・ベロス『フチボウ—美しきブラジルの蹴球』(ソニーマガジンズ)は 実に面白い本だった。

記事を読む

no image

今度はサハラかよ

久々に帰国して、待っていたのは書かねばならない原稿の山。 まずまっさきにとりかかったのはサハラ・マ

記事を読む

no image

重版ラッシュ

二日前、「幻獣ムベンベを追え」と「巨流アマゾンを遡れ」がそれぞれ三千部ずつ重版になった。 両方とも単

記事を読む

no image

山口晃、増刷、イベント

ロマ音楽につづいて私が最近嵌っているのは山口晃。 彼の『ヘンな日本美術史』(祥伝社)はあま

記事を読む

no image

まだやる気なのか?

集英社に行き、ムベンベ映画化を目論む映画監督アベ・ユーイチ氏とプロデューサーでネルケピクチャーズ役員

記事を読む

no image

新刊「世界のシワに夢を見ろ!」完成

いよいよお待ちかね、新刊「世界のシワで夢を見ろ!」(通称「しわゆめ」)が完成した。 これはヤングチ

記事を読む

no image

「占い」と「UFO」収録

雪の東京へ出て大阪のスタジオ収録へ。 箱根を越えたら雪などまったく降ってないのでちょっと驚く。 今回

記事を読む

Comment

  1. タカ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; InfoPath.1)
     高野さん、鳥かごの意味、ありがとうございました。
     江戸時代の五人組のようなものですね。

  2. gadogado より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; BT Openworld Broadband; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727)
    あーそんなに違うんですか?是非読んでみます!ミステリーの要素が入っているんなんて思いもしませんでした。自分の住むイギリスでは「今年一番の feel good movie!」 という宣伝でしたが…。ちなみにアカデミー賞受賞の時この監督の生まれ故郷(マンチェスター郊外?)に監督の親兄弟を集めて実況中継をしてたんですが(日本のオリンピック時に選手の家にカメラがあるような感じに)監督の双子のお姉さん顔が似すぎです!あたりまえか。

  3. minaxi より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; GTB5; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.0.04506)
    主人公の名前からして、宗教や民族を特定できないようにしてありましたから、インドだからといってヒンディー語ではまずかったんじゃないでしょうか。
    とはいうものの、映画ってチェコや中国が舞台でも、英語喋ってますよね。それっぽく訛ってたりして 気がつかなかったりするけれど。
    ミステリーの要素って、そういうことだったんですか、
    関西人はそれを オチ と言います。
    小説って、いつもなんとなく消化不良で、「だから何やねん?それがどないしてん?」と思っていましたが、 オチってないのが標準だったんですね。
    でも顧客満足のために オチは是非つけてください。

  4. かりん より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 SA700iS(c100;TB;W24H12)
    映画は迫力ある展開とインドに魅力を感じます。しかし、貧しい階級の悲惨さがどうにもやりきれない。…それは別として原作読んでみます。

  5. ピーちゃん より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506)
    今朝の北海道新聞に高野さん載ってました(*^_^*)
    ヒデユキでカナふってあります。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

PREV :
鳥籠
NEXT :
きっと名人
no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑