*

アフガンの謎を千葉で解く

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

火曜日、『アジア未知動物紀行』の最後の著者校正をやっていたら、
校正係から困った指摘を受けた。
アフガニスタンで食べた平たい揚げパンを「カチョルー」と本文で書いたところ、
校正係の人によれば(どこで調べたのかわからないが、「ボラニ」だという。
おかしい。たしかに現地の人は「カチョルー」と教えてくれたのだが。
ネットで調べてもはっきりしたことはわからない。
私は日本にアフガニスタンの知人はいない。
そして、校正は水曜日の午後には編集部に戻さなければいけない。
時間がないのだ。
しかたなくネットでアフガニスタン料理店を検索したら、
成田と千葉の間の四街道という町に一件だけあることが判明。
タイ寺で大いに時間をロスしたが、無理してその店「バーミヤン」へ行く。
次の電車が20分後。それには絶対に乗りたい。
実は夜7時から友人と飲む約束をしていたのだが、すでに2時間遅れなのだ。
すでに夜8時すぎ。暗い住宅街に夢のようにその店はあった。
まるで田舎町の大衆居酒屋か食堂のようだ。
ガラッと引き戸(なぜか)を開けると、お客は誰もおらず、
アフガニスタン人の夫婦がテレビを見ながらお茶を飲んでいた。
「すいません、ちょっとおききしたいんですが」と言い、
森清撮影のその揚げパンの写真を見せた。
「これ、何て名前でしょうか?」
二人は一瞬、アゼンとしていたが、
ヘジャーブをかぶった奥さんが「ブラニです」と教えてくれた。
カチャルーは「ジャガイモ」の意味。
現地で私が「これ、何ですか?」と訊いたとき、通訳は揚げパンでなく
その中の「具」について教えてくれたのだ。
ブラニにはジャガイモ入りもあれば、ネギ入りもある。
謎が解けた!
「そうですか! 今日は時間がなくてご飯が食べられません。どうもすみません。
今度また来ます。ありがとうございました!」と叫んで飛び出す。
二人は最後まで、目をぱちくりさせていた。
失礼なことをしてしまったかもしれないが、本当に時間がなかったのでやむをえない。
お詫びといってはなんだが、味わい深い店だったことをお伝えしたい。
外国人、しかもアフガン人が夫婦でやっているというのも超珍しいし。
しっかし、千葉の田舎を電車とバスで移動するのはものすごく不便だ。
そしてそんなところにアジア・アフリカ系外国人がわさわさ住んでいる。
ウチザワ副部長のように、千葉へ移住すれば簡単なんだけどねえ。

関連記事

no image

東京の秘境

帰国中の義姉に連れられ、明大前にあるジャズ喫茶「マイルス」を訪問。 ゴールデン街のような狭い店には

記事を読む

no image

熊いじめと阿片チンキ

前々から英語圏に興味がなかったのだが、最近ははっきりと拒否反応を示すようになってきた。 おかげで客

記事を読む

no image

パレスチナの悲劇は世界の元気か

 今日こそアラファトとパレスチナについて辺境的な感想を一言書きたい。 十年ほど前、中国の大連にしばら

記事を読む

no image

日本はフライ級ミステリの宝庫?

独裁政権下の小説を読みつづけている。 最近はオレン・スタインハウアー『極限捜査』(文春文庫)を読ん

記事を読む

no image

今日から「預言」はやめる

 高島俊男先生の『お言葉ですが… 第11巻』を読んでいて、驚いた。  「預言が『神の言葉を預かる』と

記事を読む

no image

酒飲み書店員大賞、韓国進出!

韓国のエージェントの人から聞いて初めて知ったのだが、 『ワセダ1.5坪青春記』の帯に(韓国の本にも帯

記事を読む

no image

ツチノコ・ロケ

「未確認思考物隊」のロケで岡山の「ミスター・ツチノコ」滝沢さんに会いに行く(写真:左)。 20年間、

記事を読む

no image

エンタメ・ノンフ対談

『怪獣記』の販促で、カメラマンの森清と高田馬場・早稲田界隈の書店周りをする。 どこも『ワセダ三畳青春

記事を読む

no image

本格エンタメノンフの傑作

平松剛『磯崎新の「都庁」』を読了。 著者については恥ずかしながら全く知らなかったが、2001年に同

記事を読む

no image

もう一人の「高野秀行」との出会い

ご存知の方も多いと思うが、将棋の棋士に私と同姓同名の「高野秀行五段」という人物がいる。 ネットで「高

記事を読む

Comment

  1. dareka より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/312.9 (KHTML, like Gecko) Safari/312.6
    本ってそんな正確に作られるものなのですね。
    おつかれさまでした。
    神田にもアフガニスタンの店がありましたよ。
    http://members3.jcom.home.ne.jp/kanda-kabul/menu.html
    以前行った時は、たしか難民支援のための店とかで
    アフガン人がだらだらしたゆる〜い店だった。

  2. タカ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; InfoPath.1)
    >今日は時間がなくてご飯が食べられません。今度また来ます。
     笑いました。これは 目をぱちくりするでしょう。
     それにしても四街道の住宅街のアフガン料理屋。客は来るので
    しょうか、他人事ながらちょっと心配。

タカ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年7月
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    28293031  
PAGE TOP ↑