*

ブータンはチベットではない

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


日本で入手できる唯一のブータン映画ということで、
5000円近くも出して「ザ・カップ 夢のアンテナ」というDVDを購入してみた。
Amazon.comにはこう書かれている。
内容(「キネマ旬報社」データベースより)
『ラストエンペラー』『戦場のメリークリスマス』のジェレミー・トーマスがプロデュースした感動ドラマ。ブータンの少年僧たちは、サッカー・ワールドカップのテレビ観戦を熱望していた…。現地僧院でオールロケ、プロの俳優が一人も登場しない意欲作。
と、ところが。
見てみたら、舞台はインド国内のチベット人寺院で、
登場する俳優(実際の僧侶)もチベット人、話す言葉もブータンのゾンカ語ではなく、チベット語だった。
(ブータン人の留学生に聞けば、「ブータン人にはチベット語はほとんどわからない」そうだ)
結局のところ、監督がブータン人で、製作はオーストラリア=ブータン合作だからブータン映画と言っているだけだった。
DVDのジャケットもキネ旬データベースも完全な嘘である。
それにもう一つ重要なのは、「チベットは中国に支配され独立を否定されているために
ワールドカップに参加することができない」という裏のテーマがこの映画にはある。
ブータン映画と銘打ったら、それが全部、無意味になってしまう。
こういう「どうせ辺境だから何を言ってもわからないだろう」という態度にはほんとうに腹が立つ。
日本人監督が韓国の釜山を舞台にすべて韓国人の俳優を使って撮った映画を
ヨーロッパで「日本の港町を舞台にした感動の物語」とかいって公開されたらどうか。
日本人も韓国人も両方怒るだろう。
それと同じだ。
とはいうものの、映画自体はとても素晴らしく、金を返せと言えないどころか
少しでもたくさんの人たちに見てもらいたいくらいで、
全く困ったモンである。

関連記事

no image

まくらサイズです。

「在日ムスリムのメッカ」と一部で勝手に言われることもある群馬県・館林&伊勢崎の館林を初めて訪れた。

記事を読む

no image

ワセダ復帰へ

前回、「野々村荘は人気物件で、空き部屋はまったくない」と書いたのに、 その翌日、大家のおばちゃんから

記事を読む

no image

今まだそこにいるんだけど…

ソマリランドの首都ハルゲイサもそろそろ一週間。 ソマリ人との付き合いは二週間。 さすがに最近は慣

記事を読む

no image

酒浸りなのかと言われても…

私の数ある悩みの一つは、初対面の人に「これが私の書いた本です」とさっと渡せるような本が一冊もないこと

記事を読む

no image

高野秀行の新刊、続々?!

「高野秀行」の本が続々と出ている。 今度は五段ではなくたしかに私の本なのだが、 韓国語版だ。 すで

記事を読む

no image

ソマリの海賊に実刑判決!

ソマリの海賊裁判。 世間的には微妙に話題になっているこの裁判、私は一回だけ傍聴することができた。

記事を読む

no image

『西南シルクロード』がなぜか増刷

驚いたことに、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)が重版(増刷)になった。 刊行当初からさっ

記事を読む

no image

大人の遠足

 ブータンが4月に延期になり時間がぽっかり空いたので、 発作的に小旅行に出かけることにした。  つ

記事を読む

no image

ついに文庫1位、総合3位!

「異国トーキョー漂流記」フェアで突っ走るブックストア談 浜松町店。 今日、5月1日〜7日までの売上げ

記事を読む

no image

人・脈・記

一昨日、テレビ東京のワールドビジネスサテライトで二村さんの特集を見た。 いや、生物多様性(生物資源

記事を読む

Comment

  1. 副部長 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; GTB6.3; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    そうなんです。私も観ました。これ映画自体はすごくおもしろいんですよ。
    だけどねえ……。
    あれどう見てもインドだと思ってましたがやっぱりインドですよねえ。パラボラアンテナインド人から買うものねえ……。
    言語まではよくわかりませんでしたが。
    チベットという国家

    チベット仏教文化圏(ブータンはその中に入っていると言ってもいいのでしょうか。その前提で見てしまいました)

    ごちゃごちゃになっていて作り手たちもごちゃごちゃで構わないものなのかと、なんておおらかなんだと思ったのですが……。観る方は混乱しますよ。
    しかし泣けましたね。あの電波の雑音と坊主たちの瞳のキラキラには。
    あのーうろ覚えですが
    ブータンと中南米だかアフリカだかのちっちゃい国の選手がワールドカップ中にびり決定戦だったかのサッカー試合をするという、ドキュメンタリー映画があったはずですが、あれはブータンではなかったでしたか??
    監督は西洋人でしたが。 これがまた泣ける映画でした。

  2. LP より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; ja; rv:1.9.1.7) Gecko/20091221 Firefox/3.5.7;MEGAUPLOAD 1.0 (.NET CLR 3.5.30729)
    アメリカのamazonで英語版を確認したら、英語版はちゃんとチベット僧と書いてあるようです。
    日本の配給会社がデタラメをやったようですね。
    こんなデタラメが通用すると思われてるなんて、日本人としてもバカにされてるようで腹が立ちますね。
    From the Back Cover
    Prayer. Discipline. Tradition. These are the ways of the Tibetan monks. But a group of young monks have found a new favorite ritual… soccer. Now, they’ll do anything including sneaking out the monastery and risking their futures, for a chance to see the World Cup finals in this madcap adventure that’s all for the love of the game! Based on a true story.

  3. タカノ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; WOW64; YTB720; GTB6.3; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30618)
    もちろん、英語ではみんな、ちゃんと書きますよ。
    さもないと、すぐに、当のブータン人やチベット人からクレームがつきますから。
    日本語で書けば、外国人は誰もわからない(と思う)から、
    てきとうに済ますのです。
    要するに、どこがいちばん辺境かっていうと、「日本」だということですよね。

  4. ゆき より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729; InfoPath.1)
    日本が辺境。。。日本語で書けばだれもわからないから、ですか。
    なるほど、そうおもいました。
    もともと、テレビなんかで言っている日本のマスコミの言葉はたいてい斜めに構えて聞くようにしていますが、安易に感動を煽る映画業界も問題ですね。でも、いい映画ということで、観てみたいと思いました。
    ちなみに、はじめてコメントさせていただきます。
    西原理恵子さん⇒鴨志田穣さんの戦場カメラマンものからその手のキーワードの本を探していたら、書店で目についた「ゴールデントライアングル」という文字。 『アヘン王国潜入記』 を読ませていただいて、大変おもしろく、それからずっとファンです♪

  5. wu より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    チベットとブータンって、ゲルク派とカギュ派の宗派対立もあったりして関係はそんなによくないんですよね。チベットを追われた宗派が建てた王国だったと思います。
    同じチベット系同士仲良くすればいいのにとは一応思うんですが…。何しろ世界で唯一残ったチベット系の独立国なんだから。

  6. ヤンヤン より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10_4_11; ja-jp) AppleWebKit/531.21.8 (KHTML, like Gecko) Version/4.0.4 Safari/531.21.10
    色々と大人の事情があったのだろうと思って観ていました。唐突なラ・マルセイエーズは歌詞で暗示させていたのかな、とせつなかったです。

ヤンヤン へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年3月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    25262728293031
PAGE TOP ↑