*

ラッシャー木村はツイていた

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

一昨日、夜ケーブルテレビでナイターを見ようとしたら、
たまたまNOAHの試合がやっていた。
しかも「マイティ井上レフリー引退試合」というもの。
マイティ井上が引退したのがつい最近のように思っていたから、
「レフリー生活12年」と聞き、「もうそんなになるのか」と驚いていたのだった。
すると、昨夜はラッシャー木村死去のニュースである。
木村もまた引退したばかりと思っていたが、実は6年もたっていた。
私は全日本ファンだったので、ラッシャー木村といえば
馬場、鶴田との交流戦(?)が最初の記憶だ。
どっちが先かよく憶えていないが、
馬場とは四の字固めの攻防で、木村だけ体がエプロンサイドに出ていたという理由で、
不可解な「リングアウト負け」となった。
鶴田戦では、鶴田がジャーマンスープレックスかバックドロップで投げたまま
固めたが、両者とも肩がマットについており、「両者3カウント」という珍しい結末に終わった。
で、馬場戦か鶴田戦か、これまた覚えてないんだけど、
ラッシャーが試合直後にマイクを握り、観客に向かってこう言った。
「私はいつもツイてないんですよ!」
私は馬場戦も鶴田戦もテレビで見ていたが、このラッシャーの発言はテレビで聞いたのか
それとも後でビデオか何かで見たのか定かでない。
でもたしかそう言ったはずだ。
新日本に“殴りこみ”をかけて「こんばんは、ラッシャー木村です」という有名な挨拶をするずっと前のことだ。
つくづくラッシャーというのは本当に善良な人だったのだなと思う。
同時に、「ツイてない」というのはどういう意味かとも思う。
この発言はとうていギミックとは思えない。
そして試合に筋書きがちゃんとあれば、ラッシャーがマイクでこんな素朴な怒りをぶつけるわけもない。
プロレスというのは、やはり単純に筋書きがあるものではないんだろう。
筋書きはあってなく、なくてある。そんなものかもしれない。
プロレスラーとは我々素人の想像のつかない不可思議な世界に住んでいるのだろう。
ラッシャーは、国際プロのエースだったのに、全日本との交流戦ではそういう結果に甘んじ、団体がつぶれてからは「はぐれ国際軍団」という凄いネーミング(!)で
悪役に転落し、新間寿のUWF構想にひっかかって前田日明や佐山聡とリングにあがるというとばっちりを受け、レスラーとして脂の乗った時期にほんとに「ツイてない」としか言いようのない
運命に翻弄された。
だが、第一線を退いてからの全日本での不思議な人気をふくめ、
これほど団体的にもレスリングスタイルとしても幅広く活躍し、
(国際時代は金網レスリングの鬼だった)
そのいちいちがファンの記憶に残ったレスラーも珍しい。
プロレスラーとしては決して「ツイてなかった」わけじゃないと思いつつ、
懐かしいあの黒タイツ姿をそっと偲んでいる。

関連記事

no image

世界陰謀の真実はビニール傘にあるのか

某出版社で編集をしている探検部の後輩・杉山の紹介で、丸山ゴンザレスという異端作家と新宿の客家

記事を読む

no image

TBS「クレイジージャーニー」とすしざんまい

さきほど私が出演したTBS「クレイジージャーニー」が放映された。当初は「ムベンベ」「アヘン王国」「ソ

記事を読む

no image

ブログとツイッター

半年ほど前、誰かに誘われてツイッターを始めたものの、使い方がよくわからないうえ、 面倒くさくなって放

記事を読む

no image

また見つかったらしい

友人に教えてもらって知ったのだが、インドネシアでまたシーラカンスが見つかったようだ。 漁師の手に抱

記事を読む

no image

『謎の独立国家ソマリランド』PV&オタク本の魔力

『謎の独立国家ソマリランド』発売1カ月を記念して(?)、 プロモーション映像を作った。 http

記事を読む

「Brutus」にて“辺境小説”を紹介

現在発売中の「Brutus」1.1/1.16合併号の特集は「夢中の小説」。 私も「小説の世界で見つ

記事を読む

新連載開始?

今、すでに五誌(紙)で連載していてアップアップなのに 今度は「本の雑誌」で新連載を開始してしま

記事を読む

no image

アフガンのケシ栽培の謎(2)

 アフガンのケシはなぜそんなに大きい実がなり、ミャンマーの4倍ものアヘンがとれるのか?  一つには

記事を読む

no image

旅に出るにはワケがある

わけあって部屋の片付けをした。 ゴミためのようで、足の踏み場もなかったのだが、 片付けるとウソのよ

記事を読む

no image

冷や汗をかいた…

『本の雑誌 おすすめ文庫王国2006』が発売された。 毎年楽しみにしているムックだが、今回は私自身も

記事を読む

Comment

  1. 指導員『O』 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.1; Trident/4.0; GTB6.4; SLCC2; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30729; Media Center PC 6.0)
    馬場さん。
    鶴田さん。
    三沢さん。
    今度は木村さん。
    残念です。
    【風車吊り】とか【裏4の字固め】などの風変わりな技を出していた頃が懐かしいです。
    国際プロが解散し、はぐれ国際軍団として、猪木と1vs3の試合を強いられた時は、ほんとに猪木が憎かったです。
    旧UWFからの脱退は、シュートスタイルに対応出来ないからだと、実しやかに言われてるけど、実際には知人のブッカーへの義理を果たすためだったとも。
    マイクの是非はともかく、馬場さんの元で、安住の地を得たようにも思えました。
    心あるファンはみんな、木村さんの『優しさ』『謙虚さ』『強さ』を感じ取っていたと思いたいです。
    ラッシャー木村さんの、怖いけど優しい笑顔を忘れません。
    お疲れ様でした。
    どうか安らかにお休みください。。。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑