楽譜集の自費出版を考えている人のための、著作権処理と編集業務について
2年ほど前に『尺八ポップス樂曲集ハ調ベース85選』という楽譜本の著作権処理をした際、「10月のお仕事〜自費出版尺八楽譜集の著作権処理」というエントリを書きました。
ありがたいことに、この記事を読んで、問い合わせをくださった方がおられ、今度は、マンドリンの楽譜集の自費出版をお手伝いすることになりました。
楽譜集を作る場合、出版社のものでも、自費出版でも、基本的な作業のフローは同じです。
大まかには次のようなステップをたどります。
【自費出版で楽譜集を作る場合のステップ】
① 本のサイズやページ数、収載内容を考える
② 選曲する
③ 著作権の確認をする
④ 原稿を作る
⑤ 浄書&本のデザインをする
⑥ 編集・校正をする
⑦ 修正・チェックする
⑧ ④〜⑦の間に楽曲の使用許諾申請をする
⑨ 印刷所へ入稿する
⑩ 完成
③と⑧以外は、別のジャンルの本でも大抵同じ流れです。ただし、自費出版や、楽譜集には、それぞれ他とは異なるポイントがあります。
● 自費出版ならではのポイント
発行者の“予算”と“想い”で本の内容は自由自在
出版社で本を作る場合は、自社や他社のベストセラー、売り場などを参考に、本のサイズや価格、ページ数、装丁、主な購買者層などをある程度絞って制作に入ります。発行部数は営業部門の判断にも委ねられるため、部数の大小によって本の制作費や利益なども変わってきます。
特殊な事情でもない限り、「全部売れても赤字!」という企画は通りません。ところが、自費出版の場合、企画も制作費もすべて自分の負担ですから、「どこまで費用をかけられるか」「どんな本にしたいのか」は自分次第。もちろん、「この本を売って儲ける!」という利益重視であれば、出版社の方向性と近くなりますが、「自分の作品の集大成として」とか「たくさんは売れなくても、必ずニーズはあるはず」とか「制作費が回収できればいい」といった、それぞれの事情で、かけられる予算や本の内容はガラッと変わります。
特に、
・本のサイズ
・ページ数
・本文がカラーかモノクロか
・発行部数
という4つの要素は、印刷費含め、全体の制作費に大きく影響してくるので、まずは、ご自分が作りたい楽譜集がどんなものなのか、しっかり決めてから作業にかかった方がよいと思います。
●楽譜集ならではのポイント
世の中に流れている曲を使う場合は、著作権の許諾申請が必要
自分で作曲したオリジナルの楽曲集を作る場合は不要ですが、日本の曲、外国の曲問わず、世の中に流れている楽曲を楽譜集に収載する場合は、曲を作った人や、曲の著作権を管理している団体など、いわゆる権利者に使用の許諾をもらう必要があります。
これらの許諾を一括で引き受けているのが、日本音楽著作権協会。いわゆるJASRACです。
JASRACの存在については、いろんな人が、いろんな意見を言っているので、それはそちらに譲るとして、楽譜制作の実務から見れば、JASRACはなかなかありがたい存在です。なぜなら、1曲ずつ権利者に連絡し、使用許諾をとりつけ、それぞれに使用料を払うという作業は、大変な労力ですし、収載する曲数や作詞、作曲者数が増えれば増えるほど、考えただけでも気の遠くなる作業になります。
かつての職場で「フォーク・ロック1001」という、文字どおり1001曲以上集めた楽曲集の編集を担当したことがありますが、これの使用許諾を個別にとらなければならなかったとしたら・・・・。(゜o゜;;
さて、大抵の楽曲はJASRACが管理していますが、中にはJASRAC以外の管理団体に委託している場合や、そもそも楽曲の著者、権利者がどこにも管理を委託していないケースもあります。特に、ゲーム音楽などはJASRAC経由では使用できないものがたくさんあります(例えば「スーパーマリオブラザーズ」(作曲:近藤浩治)や「ファイナルファンタジー」(作曲:植松伸夫)などが有名ですね)。
そういった楽曲は、楽曲の使用を自分たちでコントロールするためにあえて管理を委託していない場合が多いので、許諾申請が降りなかったり、使用料が高額だったりすることもあります。
「どうしてもその曲でないとだめ!」という企画でなければ、それらの楽曲を外すという判断も必要かもしれません。本のデザインができあがってしまってから、許諾申請をしたらダメだった……というのはシャレになりませんよね。
「③ 著作権の確認をする」が選曲の次のステップにあるのは、そのためです。
【著作権の確認をするには・・・】
著作権の確認をするには、JASRACのWEBサイトにある「J-WID作品データベース検索サービス」使うのがオススメです。
JASARCのデータベースで楽曲をチェックする際、見るポイントは2つです。
① JASRACが管理している楽曲かどうか
② 管理している場合、国内曲か外国曲か
①で、JASRACが管理しておらず、なおかつ、他の著作権管理団体でも管理されていない場合は、権利者に直接連絡するか、掲載をあきらめるかのいずれかになります。
②の場合は、日本国内で管理登録されている曲であれば、JASRACの申請用紙にもろもろ書いてFAXにて申請、もしくは事前に登録してインターネットで申し込めばOK。一方、外国曲だった場合は、その曲を日本国内で管理しているサブパブリッシャー(サブ出版)に許諾を申請、受理された上で、JASRACに申請します。
●洋楽のサブ出版の確認方法
JASRACのデータベースで楽曲情報を調べてみると、表にずらずら〜と情報が書き込まれています。
一応、凡例がついていますが、正直、あまり親切な表示とはいえません。
例えば、これは、JASRACの作品データベース検索で、ロックレジェンド、エルヴィス・プレスリーの名曲「監獄ロック(JAILHOUSE ROCK)」のデータを表示したものです。
No.1から7まで、いろんな権利者がいて、識別、信託状況によって、その人がどの権利に絡んでいるのかわかるようになっています。表の右側には、演奏、録音、出版、貸与、ビデオ……と、音楽著作権の細かい権利ごとの詳細が表示されていますが、よく見ると、映画とCMの部分に「×」がついているので、何かダメな雰囲気ですね。
この×は、その権利が、JASRACの管理下にないことを表しています。また、その下にはそれぞれ#がついており、凡例を見てみると「当該支分権・利用形態については、JASRACに管理を委託していない権利者です。ただし、複合権(放送・配信・通カラ)については、一部の支分権の管理をしている場合があります。」との説明書きがあります。
#の行を左にたどると「日音Synch事業部」とありますので、どうやら、この曲の映画とCMの権利はJASRAC以外の管理団体が管理していて、日本側の管理は「日音Synch事業部」が関係していることがうかがえます。
では、楽譜集で該当する出版権は、どこを見ればよいのでしょうか。
出版の列をタテに見ると、別段チェックも入っていないので、左側の権利者すべてが権利に関係していそうです。
No.1と2の作詞作曲者(JERRY LEIBER、MIKE STOLLER)は、出版社に曲の管理を委託しているので、日本語の訳詞を使わないのであれば、3、4、5の権利者だけを見ればよさそうです。外国では3つの会社が管理をしていますが、日本側のサブ出版はいずれも、日音Synch事業部になっています。
ということは、日音Synch事業部に許諾申請をすればいいということになりますね。
もし、3つとも別々のサブ出版がついている場合は、それぞれ許諾申請をすることになります。
サブ出版への申請方法は、いずれもFAXになりますが、申請用紙が独自の仕様になっている会社もあるので、WEBサイトや電話で確認してから申請すればよいでしょう。
ちなみに、曲によっては、PD(パブリック・ドメイン)となっていて、著作権使用料のかからないものもあります。また、サブ出版が設定されていない曲は、外国の管理出版社へ直接許諾申請する必要があり、こちらは言葉や、使用料の支払通貨の問題など、だいぶハードルが高めです(汗)。
音楽を愛好されている人達にとって、楽曲のアレンジや、楽譜の浄書などはなじみがあっても、著作権の許諾処理や本の制作となると、少しハードルが高いかもしれません。
マンドリン曲集を依頼されたクライアント様も、ご自分で選曲、浄書の手配を進めておられましたが、著作権の許諾申請処理の段で悩まれ、ご連絡いただきました。
すでに、浄書もすんでおりましたので、私のほうでは、著作権の確認をした上での選曲アドバイス、許諾申請のほか、台割の作成、浄書データのInDesign貼付、タイトル周り作成、表紙デザインなど、通常の出版物の作業を中心に、最終的な印刷の手配までお手伝いさせていただきました。
楽譜集の自費出版を考えておられる方は、上の「お問い合わせ」ページから、お気軽にご相談ください。
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Comment
初めてメールします。
音楽教室を経営していて、その生徒むけの
教材用楽譜・老人向け 楽譜
の自費出版を考えています。
ご相談等 できれば嬉しいです。
府中におうかがいも可能です。
どのように、申し込みをしたらよろしいでしょうか?
09015041373 携帯
お手数おかけしますが、よろしくお願いいたしますm(._.)m
大部様、先日はありがとうございました。
いいものができるよう、お手伝いさせていただければ幸いです!
国内曲においても、まず作曲者(出版についての著作権管理会社)に、編曲して出版しても良いか、許諾を得る必要があります。いきなりJASRACに申請してOK、というのは、著作権的には問題があるかと思います。
通りすがりのアレンジャーさん、コメントありがとうございます。
編曲については、作者に著作隣接権がありますので、ご指摘の通り編曲の許諾を取る必要があります。確かに乱暴な説明でした。
このあたりは、JASARCもある程度把握しているのか、編曲に対して許諾を要する作者(例:す○やま○○いち大先生とか)の場合は、申請時に音楽出版社に連絡をとったかどうか連絡がきます(汗)。
嘉門達夫さんのように、きわどい替え歌の場合も、CDリリース時は事前に出版社ならびに作者の許諾を得た上で進行したと聞いています。
著名な楽曲の場合は、その曲のアレンジ譜がすでに出版されているかどうかでもある程度判断できますので、そのあたりの下調べも大事ですね。
いずれにしましても、ありがとうございます。