*

スポーツノンフィクションとしてのブラインドサッカー

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


ブラインドサッカーという競技がある。
目の見えない人たちがボールに入った鈴の音を頼りにフィールドを駆け回り、
ほとんど目の見える人と同じようにプレイするサッカーだ。
もはや私の古い友人であるスーダン盲人留学生のアブディン(拙著『異国トーキョー漂流記』ではマフディという名前になってる)がここ数年、夢中になってやっているので、
私も何度か練習に参加したことがある。
そればかりか、ギリシアで行われたクラブ世界選手権や韓国で行われた北京パラリンピック・アジア地区予選にも、応援で見に行った。
もちろん、いつかは自分でこの不思議な競技について書きたいと思ったからだが、
先週、アフリカから帰ると、そのブラインドサッカーについて書いた本が家に届いていた。
『闇の中の翼たち』岡田仁志(幻冬舎)
うわーっ、先を越されたか!と一瞬思ったが、私と同じ視点では絶対に書いてないという確信があったし、だいたい私の取材は全く滞っていたから、さほどショックも受けずに読んでみた。
最初の印象は、「いつもどおりの、普通のシリアスノンフィクションだな」というもの。
福祉系の話はシリアスに書かねばならないという架空のルールにがんじがらめになっているライターは多い。
そのパターンを踏襲していると思った。
だが、読み進めて行くうちに全然ちがうことに気づいた。
シリアスではある。よく見かける文体で書かれていて、新鮮味もない。
だが、何かちがう。
それは著者がブラインドサッカーを、完全にスポーツとして捉えて書いているからだ。
よく見かける文体とは、「ナンバー」などに載るスポーツノンフィクションの文体ということで、それを障害者のルポに使ったのは本書が初めてではないか。
古い皮袋に新しい酒を入れたのか、古い酒を新しい皮袋に入れたのかわからないが、
この組み合わせが新しいことはまちがいない。
ブラインドサッカーの日本代表選手たちの挑戦と苦闘を、まるでふつうのサッカーの日本代表の挑戦と苦闘のように描くとは、私には逆立ちしても生まれない発想で、
ひじょうに面白く、最後には、自分の知っている選手たちが本当に中村俊輔や中田英寿みたいなスタープレイヤーに思えて、興奮してしまった。
著者は大のサッカー好きらしい。
いっぽう、私は基本的にサッカーに興味がない。
好きか、そうでないか。
それが大きいのだと当たり前のことを感じた。
私ももしサッカーがもう少し好きだったなら、選手たちとの会話も弾み、
取材にも精が出るんだろうと思う。
その部分では本書の著者に完敗であり、でも「ああ、他の人が書いてくれてよかった」とホッとしてもいる。

関連記事

no image

形見の銃弾

 義父が昨年1月、義母が今月と、相次いで亡くなったため、 妻の実家は遺品の山である。  なにしろ8

記事を読む

野宿と携帯復旧

帰国後に拝受した本、第四弾(だっけ?) タイトルだけで笑える、かとうちあき『あたらしい野宿(上

記事を読む

今年最後のトークイベント&川崎市と横浜市の市境は神の意志で決められた

6月15日(土)19:0016:30(よっしいさんありがとうございました!)より早稲田奉仕園にて、元

記事を読む

no image

身体のいいなり

内澤旬子副部長の新刊『身体のいいなり』(朝日新聞出版)はもうとっくに読んだのだが、 来月11日にト

記事を読む

no image

だいたい四国八十八カ所

宮田珠己部長より久しぶりに電話がかかってきたので、 『だいたい四国八十八カ所』(本の雑誌社)が面白

記事を読む

グラスワイン100円!! 超激安隠れ家アフリカレストラン「GOMASABA(ゴマサバ)」

以前、知り合った在日アフリカ人の二人が元浅草にレストランをオープンしたというので、 先週、『移

記事を読む

no image

ビンゴ大会で優勝

火曜、水曜と一泊二日で千葉の海辺へ両親と弟一家の総勢9名で出かけた。 一族旅行など初めてのことだっ

記事を読む

no image

ビルマロード完全走破!

。 (写真:ナガの吊り橋を渡るロケ隊のバイク)  40日にわたるミャンマー辺境のロケを終え、今日の昼

記事を読む

no image

謎の猿人ナトゥー

作家の古処誠二さんが、「藤岡弘の最高傑作」と絶賛するミャンマーで猿人ナトゥーを追う DVDを本当に送

記事を読む

本の雑誌はみんなの実家なのか

ツイッターでつぶやいたので重複するようだが、昨日久しぶりに本の雑誌を読んだ。  いつも買おうと思い

記事を読む

Comment

  1. dareka より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X; ja-jp) AppleWebKit/312.9 (KHTML, like Gecko) Safari/312.6
    完敗とかいってないで、そのサッカーのこと
    これからでも書いてください。

  2. NYPD より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; GTB6; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506)
    それは、杉江由次さんに聞いてみないとね〜♪

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年5月
    « 3月    
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
PAGE TOP ↑