*

藤沢周平症候群にお悩みの方へ

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


前にも書いたが、長年私は深刻な藤沢周平症候群にかかっている。
この病気にかかると藤沢周平以外の時代小説を受け付けなくなる。
それがどんなに良質のものであってもだ。
とくに最近は時代小説家自体が藤沢周平の影響を受けた人が多く、
ますますダメである。
なにしろ藤沢周平に似ていて、藤沢周平度は当然本家より薄いわけだから、
今までキリンクラシックかエビスを飲んでいたのが、どうしてわざわざ「のどごし生」とかを飲まなきゃいけないんだ!みたいな気持ちになる。
そんな中、ふとしたきっかけで、犬飼六岐『吉岡清三郎貸腕帳』(講談社文庫)を買って読み始めたら、意外なことに止まらなくなって、最後まで読み切ってしまった。
藤沢周平以外の時代小説を最後まで読んだのはずいぶん久しぶりな気がする。
犬飼六岐という人をうかつにも全然知らなかったのだが、構成も文章もひじょうにうまい。
だがなにより、主人公が藤沢周平とかけ離れているのがいい。
一言でいえば、ブラックジャックの剣客版である。
カネをもらえば、どんな悪人が依頼者だろうが、どういう非倫理的な仕事だろうが、請け負う。
その代わり、気に入らなかったら、どんな大金を積まれてもやらない。
腕はめっぽういい。天才である。
もちろん、ピノコ役のヒロインみたいな娘と同居している。
ただし、関係性はひじょうに冷たい。
互いに憎み合っている…。
ここまで藤沢周平から遠いと比較にもならない。
だが、読み心地は悪くなく、その世界から離れられなくなる。
世にゴマンといると思われる同じ病気の人は、ぜひ本書をお試しいただきたい。

関連記事

no image

次は雪男ブームだ!

 相変わらずブータンブームは続いている。  おかげさまで、「みらぶ〜」も3刷になり、朝日新聞の書評欄

記事を読む

no image

謎の国際ボランティア特殊部隊@浦安

後輩Kとネパール人のクマルという国際統合失調症コンビを引き連れ、 浦安市の被災地へボランティアに行っ

記事を読む

no image

辺境読書が終了

「本の雑誌」で連載していた「辺境読書」が今週発売の号で ついに最終回。 ラストは「私の座右の書」の紹

記事を読む

no image

「中国人の本音」

人気ブログ「大陸浪人のススメ」の管理人で、それを書籍化した「中国人の本音 中華ネット掲示板を読んで

記事を読む

学校や仕事に行くのが辛いとき、この映像を見よう

アブディンの『わが盲想』、やっと重版がかかった。 「すぐにドカーンと売れる」という私の皮算用か

記事を読む

no image

草食系夫にも推薦

メディアファクトリーという出版社の編集者より、 森岡正博『草食系男子の恋愛学』という本が送られてき

記事を読む

no image

ルーマニアの歌姫

「ラフ・ガイド・トゥ~」というCDのシリーズがよくて、最近よく聴く。 今日はルーマニアのジ

記事を読む

no image

彼もエンタメノンフ?

意外に思われるかもしれないが、高橋源一郎の文芸評論が好きである。 今日も『大人にはわからない日本文

記事を読む

no image

超絶技巧!!

 私は現代アートというものが苦手だ。どうしても「意味」を探さなければならないという強迫観念にさらされ

記事を読む

no image

『神に頼って走れ!』カバー案できる

今年1月から3月にかけて行った自転車お遍路旅日記『神に頼って走れ!』が 集英社文庫から来年3月に発売

記事を読む

Comment

  1. 高野症候群 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC Mac OS X 10_5_6; ja-jp) AppleWebKit/525.27.1 (KHTML, like Gecko) Version/3.2.1 Safari/525.27.1
    それは、高野本を知ってしまった人も一緒です。
    出版されてるのを全部読んでしまうと、
    枯渇のあまり、他の人が書いた似たような辺境本に
    次々手を出し、たいていは面白さほどほどで、
    ああ、高野、早く次の出せよ。となるのです。

  2. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; WOW64) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Chrome/12.0.742.91 Safari/534.30
    これはどうも恐れ入りました…。
    そうと聞けば、少しは仕事をしなきゃいかんなという気持ちになりますね。
    今からドトールに出勤します!

  3. 野浪 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Chrome/12.0.742.100 Safari/534.30
    google alarm ”藤沢周平” がこのブログの存在を教えてくれました。
    犬飼六岐を紹介していただいて、ありがとうございました。
    まだ吉岡清三郎貸腕帳と桜下の決闘だけを読んだだけですが、
    場面転換や物思いに耽る時に、風景が描写されるところが似ています。藤沢周平作品より風景描写の頻度も量も多いと感じます。
    剣技が描写されるところが似ています。
    似ていないのは、
    吉岡清三郎という視点人物の心理描写を使った[語り」だけで、語り手の[語り」がない点です。だから語りの饒舌・露悪にブレーキがかからないのかもしれません。
    色模様がない点。「おさえ」は「佐知」になるんだろうか?

高野秀行 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年12月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031  
PAGE TOP ↑