*

まるでカフカの「審判」

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


 
「オシムの言葉」(集英社文庫)などユーゴ・サッカー三部作で知られる木村元彦氏から
「争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール」(集英社インターナショナル)という長い副題の新刊を送っていただいた。
木村さんとは面識がまったくないのに不思議なことだ。
木村さんの本は、たとえ内容が固くてもひじょうに読みやすい。
この本ももらった当日に読んでしまった。
内容はふつうでは考えられない話である。
重い風邪で脱水症状を起こしていた我那覇選手にチームドクターが緊急の治療として静脈注射をしたところ、サンケイスポーツに「我那覇が疲労回復ににんにく注射」とデタラメな記事を書いた。
筋肉注射はドーピングにあたるということで、
我那覇とドクターの言うことも聞かず、クラブもJリーグも処分を下してしまう。
まったく事実とちがうのに、これが、誰がどのように訴えてもまったくJリーグを牛耳っている連中には届かない。
しかもにんにく注射だったからいけないという話が静脈注射自体がいけないという話にすり替わり、被害者たちは泥沼に陥っていく。
カフカの「審判」そのままだ。
怖いのは権力をもつ者が我那覇やドクターを憎んでいたり嫌っていたりするわけじゃないこと。
彼らにとって我那覇問題は「どうでもいいこと」なのである。
この事件を契機に我那覇は選手として輝きを失ってしまうのだが、そんなことも
幹部たちには「ふーん」程度の話なのだ。
冤罪の根本原因は「ネグレクト」だということがよくわかる。
しっかし、ここでJリーグは厳しく追及されているけど、事件のきっかけとなったサンスポについては何も書かれていない。
「匂うから近づかないほうがいいですよ」という我那覇のコメントまで作って載せているというのに。
スポーツの世界はアフリカよりもっと闇が深い。

関連記事

no image

映画「ホテル・ルワンダ」を見るべし!

試写会で、映画「ホテル・ルワンダ」を見た。 1994年、ルワンダで三ヶ月で数十万人が虐殺されるという

記事を読む

no image

ソマリランドで今、話題になってること

今、やっと日本でもソマリアの飢饉がニュースになってきたようだ。 では、こっちではどうかというと、ほ

記事を読む

no image

すべての酒飲みに読んでほしい

大野更紗『困ってるひと』(ポプラ社)の影でひっそりとだが、 私の『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)の見

記事を読む

no image

ネアンデルタール人の冬眠性って…

 ケリー・テイラー=ルイス著『シャクルトンに消された男たち』(文藝春秋)の書評を書く。  前に書いた

記事を読む

no image

「酒飲み書店員(中略)大賞」に選ばれた!?

 最近人づてに聞いたのだが、拙著『ワセダ三畳青春記』が「第1回 酒飲み書店員共同企画文庫ベストセラー

記事を読む

no image

『腰痛探検家』&『空白の5マイル』発売

早大探検部の後輩で、今年開高健ノンフィクション賞を受賞した 角幡唯介『空白の五マイル』(集英社)が

記事を読む

no image

新趣味はロマ(ジプシー)音楽

最近、急に趣味がいくつもできてきた。 その一つがロマ(ジプシー)音楽を聞くこと。 ジプシー音

記事を読む

no image

キワモノ作家の王道娯楽ミステリ!?

久しぶりに新規の(自分にとって)小説を楽しんで読んだ。 田中啓文『チュウは忠臣蔵のチュウ』(文春文

記事を読む

no image

多忙につき山歩き

依然として超多忙なので、 平日に探検部時代の後輩2人と「秘境ツアー」にいく。 三人とも当然、フリーか

記事を読む

no image

可哀想なレビュアーの話

角田光代の『紙の月』(角川春樹事務所)を読んでから、アマゾンのレビューを見た。 「駄作です」という

記事を読む

Comment

  1. 木村元彦 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.1; Trident/4.0; GTB7.2; SLCC2; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30729; Media Center PC 6.0; OfficeLiveConnector.1.4; OfficeLivePatch.1.3)
    高野さん、木村です。ご紹介いただきありがとうございます。お答えします。サンスポを敢えて強く追求しなかったのには理由があります。当時、CASの裁定で我那覇の潔白が証明された際、Jリーグに擦り寄っている御用記者が「そもそも悪いのはサンスポではないか」と責任の所在をすり替える言説を流布したことがあったのです。これこそ詭弁で、事情聴取をして有罪に裁いたJリーグへの批判を拡散させてしまったわけです。誤報はきっかけであったけども(意図的な)冤罪を生んだのはJリーグ医事委員会です。一般社会でも報道から検察が有罪判決を下すなどということがあって良いはずがありません。プロ野球では2009年に中日の吉見投手が同様に不勉強な中スポの記者に治療を「ニンニク注射」と書かれて問題視されたのですが、NPBの医事委員会は事情聴取をしっかりと行い、正当な医療行為であることを確認して不問にしています。これが本来のあり方なのです。(もちろん酷い記事ですが)サンスポ追求に寄り過ぎるとこの問題を矮小化させてしまうという私の判断です。ちなみに誤報の記者は我那覇に直接謝罪しています。対してJリーグの当該関係者は、本書に書いたとおり詭弁のインフレで会おうともせず逃げています。我那覇のおかげで医事変革が進まなければ、W杯のベスト16もなでしこの世界一もなかったかもしれないというのに。以上です。

  2. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; WOW64) AppleWebKit/535.7 (KHTML, like Gecko) Chrome/16.0.912.75 Safari/535.7
    木村さん、はじめまして。
    わざわざ疑問にお答えいただき、ありがとうございます。
    なるほど、そういうことだったのですね。
    昨日は「溝畑宏の天国と地獄」を拝読しました。
    これはすごかったですねえ!
    トリニータのことも溝畑氏のことも何も知らなかったもので、
    あまりの話に仰天してしまいました。
    詳しくはお会いしたときにお話したいと思います。

高野秀行 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2026年2月
     1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    232425262728  
PAGE TOP ↑