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高野本の未知なる領域

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

ここ最近最も驚くべき、かつ(それが本当なら)実に嬉しいことがあった。

大竹まことのゴールデンラジオと報道ステーションで『謎の独立国家ソマリランド』が紹介されたことではない。
まあ、それはもちろん喜ばしいし、ありがたいことであるのだが、
いまやソマリランド本は一種の「現象」であり、著者である私にも関係ないところで物事が進んでいっているような感がある。

2013.06.01machigauそれとは全く別次元の話だ。
6月に元「たま」のランニングこと石川浩司氏とトークイベントを行う予定で、
その打ち合わせのため、主催者3名とシャン料理屋で飲んでいた。
三人ともコアな高野本読者であり、高野本については下手すると著者の私より詳しい。
とある大手企業の人事部に勤めるSさんもその一人で、
何を思ったか、高野本の新しい使い方を発見したという。

あるとき、同じ人事部のメンタルヘルス担当の課長に私の『間違う力』を渡したところ、
課長がそれを10冊購入し、精神を病んで求職中の社員10名に送った。

すると、なんと10人中8人が読了後、会社に復帰し、
しかも社内の評価(恐ろしいことに学校みたく5段階評価になっているという)が、休職前は1か2だったのが復帰後は4か5という高評価をあげた。
それも他の社員と同じようにしゃかりきに働くのではなく、自分のペースで働いて好結果を生みだしているという。

一般に精神を病んで休職後、職場に復帰するのは3割程度で、ましてや評価をあげるなどよほどのことがないとありえないらしい。
なのに、8割が理想的な復帰を遂げた。

Sさんによれば、その人たちは「『間違う力』を読んで気が楽になった」と語っているという。
実際にSさんはうち5人に聞き取り調査(面談)を行い、同書のどんな部分で気が楽になったのかと訊いたら、
私が掲げた「オンリーワンの10カ条」のうち、「長期スパンで物事を考えない」というところが最も人気があったそうだ。

いやあ、驚いた。
『間違う力』は、今となっては「書いたことが間違いだった」と思う本なのだが、
メンタルヘルスに著しい効果を持っているらしいのだ。

残念ながら、私の周囲にあの本を読んで「気が楽になった」なんて言う人はいない。
一つにはもともと間違ってる人が多いからだろうが、もう一つには「読み方」の問題なのではないだろうか。
いくら精神を病んでいる人でも、あんな無責任きわまりない本を友だちや家族から勧められたら「バカにしてんのか!」と怒るだろう。

でも会社の人事部から送られてきたとなれば、話は全然ちがう。
会社の人事部が「間違っててもいいんだよ」「無責任でもOK」とメッセージを送っているわけで、
精神を病むような真面目な社員はほんとうに気が楽になるのかもしれない。

昨日は飲み会の席で聞いた話だし、私もSさんも酔っ払ってたし、細かいところをメモしたりしていない。
それに、その話がすべて事実だったにしても、さすがに被験者10人はデータとして少なすぎる。

というわけで、Sさんにはあらためて社内での治験を続けてもらうよう依頼した。
社員が国内だけで1万人以上いるというから、精神疾患の人も相当に存在するはずだ。
もし、50人くらいに試して、その8割に効果が確認されたとしたら大変なことだ。

今の日本では、精神疾患で求職中もしくは普通に勤務できない会社員が一体何十万人いることだろうか。
一つの社会問題であり、『間違う力』はその特効薬となる可能性があるのだ。
そのうちワールド・ビジネス・サテライトで紹介され、日本精神医学会や科学誌「ネイチャー」でも論文が掲載され、
ゆくゆくは書店でなく薬局で販売されるようになるかもしれない。

もしそんなことになれば、ソマリ本が何万部売れたとか賞をもらったなどとは比べものにならないほど凄い話で
今からSさんの報告が待ち遠しくてならないのである。

 

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Comment

  1. 伊藤 渉 より:

    高野先生 こんにちは

    高野本の副作用として その後 アスクルを買って仕事を辞めてしまう人
    が続出しそうです。
    それが幸か不幸かはわかりませんが。

  2. ahmad より:

    私の実家近くの図書館では、この本は確か「人事労務」の棚に置いてあったように記憶してます。あるいは『アスクル』と私が勘違いしているのかもしれませんが。

    今インドネシアにいるので確認できないのが残念ですが、『間違う力』が日系企業の人事総務部推薦図書に指定される日は近いと思います。

    『ソマリランド』大ヒットの余波で『間違う力』も大増刷がかからることを期待します。

  3. ajiketo より:

    アスクルもS社で付録扱いしてくれないかなぁ。

  4. ヒラメ より:

    この路線は子どもの「引きこもり」にも治療効果があるのでは?

    うちの会社でも社員が突然「辞める」というのでワケを聞いてみると「引きこもりで悩んでいる親子の相談に乗るNGOで活動したい」という。

    給料は出るのか?と聞くと相談に乗った出来高、NGOでの講演料などが見込めるがギャランティーはない。それでも自身も以前引きこもりだったので是非この仕事をやりたいという。

    理想はいいが食っていけるのかと心配すると、どうも貯金すらないらしい。尋問を続けて聞くとNGOからは自費出版のコンサルティングも受けていて給料どころかかなりの額のフィーをすでにそのNGO(ほんとにNGOか?)に支払っていてカネがないとのこと(amazon電子版で売られていて驚いた)。

    普通に考えてヤバイ話だと思ったのでさりげなく、理想はいいが継続しなけりゃ意味が無い、すこしカネが貯まるまで会社を辞めるなという話に誘導して終わったが、引きこもりとそれを取り巻くNGOというのはかなりビジネスモデルが確立されているなと素直に感心しました。それだけマーケットが広いのでしょう、今回の出社拒否のマーケットに比べても。

    高野さんの本でも「三畳記」「西南シルクロード」の一部でご自身のどん底の描写がありますね、これを「間違う力」の路線に繋げて「自分も引きこもりだったが冒険が出来た!」「心の辺境、引きこもりから脱出する方法」といったテイストで第二弾を企画すればかなり売れるような気がします。人事部を親、社員を子どもに置き換えて本が流通するのであれば当然規模が違ってくるでしょうから。

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    • いえ、当時から私は事務が全くできず、優秀な後輩たちにやってもらってました。今、彼らが秘書兼マネージャーをやってくれたら、言うことなしなんですが。 https://t.co/JqLR159NYS ReplyRetweetFavorite
    • 実は1989年12月に最初の本『幻の怪獣ムベンベを追え』(後に文庫化されて『幻獣ムベンベを追え』)を刊行した。そしてちょうど30周年記念に「幻のバオバブ納豆を追え」を発表するわけで、この変化のなさには我ながら驚く。 ReplyRetweetFavorite
    • 「幻のバオバブ納豆を追え!」という講演をやります。他の参加者はみな研究者だというのに、私だけこんなタイトル。 https://t.co/x4X419MboR ReplyRetweetFavorite
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