歯型
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
ワセダの野々村荘の三畳間を再度借りたはいいものの、
家から片道1時間もかかるし、行く用事も特にないし、
誰も宿泊所に使いたがらないしで、
結局手放すことにした。
「手放す」といってもただ借りていただけなんだが。
後任は探検部現役の後輩。
彼は「ワセダ三畳青春記」を読んで早大に入り、探検部に入ったというから
野々村荘に入れて本望だろう。
後輩を連れて大家宅を訪れたら、
大家のおばちゃんとロックンローラーの長男が出迎えてくれ、
この間、長男が34年来の親友と家の中で取っ組み合いの喧嘩をしたという話をしてくれた。
長男が親友を「殺してやる!」と叫んで首を絞めたところ、
親友は長男の腕にかみついた。
「このままじゃどっちかが死んじゃう」と驚いたおばちゃんが110番し、
そのうちパトカーが到着、長男と親友は警察に連行された。
牛込警察署で長男は腕についた歯型を「傷害」の跡として確認された。
しかも歯形は2つ並んでいた。
「大きいほうが友達ので、小さいほうがおふくろだったんだよ。
いや、恥ずかしかったね」と長男。
「え、おふくろ?」
「あのね、あたしも必死になって止めようとして、かみついたのよ」とおばちゃん。
長男の腕に34年来の親友と84歳の母親が二人して食らいついていたらしい。
その2つの歯形を警察は何十枚と、角度を変えて写真撮影していたそうな…。
後輩は唖然としていた。
あとで彼曰く、「まったく本のままなんですね」
彼もやっと私の本が事実を誇張しているのでもなんでもなく、
どちらかといえばマイルドな事件をマイルドに書いていただけと気づいてくれたようだ。
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Comment
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「ワセダ三畳〜」を古き良き時代の「トキワ荘」と同感覚で読んだ私としては、今だ下宿も大家さんも健在の事実が嬉しいです。早稲田界隈には、「街の文化遺産」がまだ残ってるんですね。
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こんな有難い(文字通りの意味でも)お話をタダで読めるなんて
何でもっと早くこのサイトにたどり着かなかったんだろう?
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はじめまして。高野さんの作品を楽しく読ませていただいております。
ブログのほうもちょこちょこ読んでわらかせてもらってます。
おばちゃんの健在っぷりといつまでもロックな長男氏なんですね。
これからも楽しく読ませていただきます!
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そうだったんですか!
大家のおばさんはご健在だったのですね。
ずっと気になってたんです。まだご健在なのかどうか。
しかも歯型をつけられるほど元気なのですね。
万歳!!
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「ワセダ三畳青春記」は、去年読んだ本の中で、もっともおもしろおかしく、そして胸に迫った1冊でした。終盤は最高のラブストーリーだと思います。今はそうではないのかもしれませんがw
それにしても大家さんがご健在とのことで、とても嬉しいです。
歯形が付くくらい噛む力が残ってるようなので、まだまだお元気なんですね。安心です。
それにしても息子がなぁ。。。
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この部屋から新しい純文学が生まれる日を期待していたのですが、残念です。歯ブラシ男も気になります。