*

奇人コレクション

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


その昔、「PLAYBOYドキュメント・ファイル大賞」というノンフィクションの賞があった。 
選考委員の顔ぶれはすごく、たしか開高健、筑紫哲也、安部公房、藤原新也などが名を連ねていたと思う。
第一回の受賞作は大賞が佐伯泰英の『闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱』、
優秀賞が恵谷治『秘境の戦士たち』だった。
現代最大のベストセラー作家と早大探検部OBがこんなところでニアミスをしていたのである。
それから数年後、第4回大賞を受賞したのが大谷幸三『性なき巡礼 インドの半陰陽社会を探る』(集英社)
先日、著者の大谷さんにお会いしたので、本を買ってあったが、未読だった。
読んでみたら、予想以上に面白い。
「ヒジュラ」は一般にはオカマの集団と思われているが、
インドでも最高度にタブーの存在で、文献も皆無に近い。
それを、大谷さんは何かに取り憑かれたようにヒジュラの真実を求めて
最底辺社会に飛び込んでいく。
一文無しでヨーロッパからインドを放浪した自分と重ね合わせて、
ヒジュラの起源を探す旅は、青春記としても出色のできだ。
      ☆        ☆        ☆
関野吉晴氏の同僚で、ランドスケープアーキテクチャーの第一人者、
望月昭・武蔵野美術大学教授の招きで、ムサビに行き、講義を行った。
講義名は「植物と人間」。
ケシからとれる植物について、写真を交えて解説したが、
そのうち、望月さんとイスラム圏の酒やドラッグの話に脱線してぐだぐだに。
こっちの方が面白かったかもしれない。
望月さんはとにかく奇人変人の人脈がすごい。
授業のあと、望月節が全開。
ロス疑惑の三浦和義に「やっぱりおまえがやったんだろ!」とからんだとか、
人肉食の佐川一政氏に「肉はうまかった?」と訊いたら、「あまりうまくなかった」と言うので、「食う前に料理の勉強をしなきゃダメだ」と説教したとか、
「サダム・フセインとバグダッドで会食したことがあるけど、本物か影武者かわからなかった」とか、話を聞いていると、キワモノ人物図鑑のようである。
フセインの話が終わったあと、
「そういえば、最近すごい人がいるよな」と望月さんは言う。
「世界中をまわって、屠畜の現場ばっかり行って、細かいイラストで紹介してる女性…
面白いよな−、一度会ってみたいなあ…」
「その人なら心当たりがあるので、いつでも紹介します」と言っておいた。
望月さんの奇人コレクションにまた一人加わることになろう。

関連記事

no image

謎の猿人ナトゥー

作家の古処誠二さんが、「藤岡弘の最高傑作」と絶賛するミャンマーで猿人ナトゥーを追う DVDを本当に送

記事を読む

no image

ずいぶん前の話だけど

ずいぶん前の話だけど、早大探検部の先輩・西木正明の『流木』(徳間文庫)という本の「解説」を頼まれて、

記事を読む

no image

今こそ難民認定と合コンを!

いまこの瞬間も地震で揺れている。 いつまで続くんだろう、というか地震の巣の上に住んでいるようなものだ

記事を読む

no image

びっくり!

 昨年11月に何度か上映会を行ったが、そのときこのブログを通じて、 私に直接「上映会を見たい」とメー

記事を読む

no image

旅に出るにはワケがある

わけあって部屋の片付けをした。 ゴミためのようで、足の踏み場もなかったのだが、 片付けるとウソのよ

記事を読む

no image

やっぱりミャンマーの辺境はいい

 ミャンマーより帰国した。  たった一週間の慌しい旅だったが、同国最北部の辺境地まで行き、イラワジ

記事を読む

no image

コーカンとワ

言い忘れていたが、今月29日に行われるウチザワさんの豚を食う「飼い喰い」イベント、 予約がもういっぱ

記事を読む

no image

リンガラ語を社内公用語に

楽天につづいてユニクロも社内公用語を英語に決めたそうである。 「日本だけの会社じゃない」という思いか

記事を読む

no image

シリア入国

昨日、トルコのユーフラテスから離れて、 シリア領に入った。 エンギンともお別れ。 彼は私の『怪獣記』

記事を読む

no image

スリランカ人しかいない焼肉屋

探検部の後輩たち数人と渋谷のラブホ街の真ん中にある焼肉屋に行く。 裏情報誌「裏モノジャパン」の編集長

記事を読む

Comment

  1. 副部長 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10_4_11; ja-jp) AppleWebKit/533.17.8 (KHTML, like Gecko) Version/4.1.1 Safari/533.17.8
    奇人呼ばわりされて光栄です。いつでも喜んで。と御伝え下さい(笑) 

  2. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.0; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
    お、副部長、どうも!
    望月さんは「身体のいいなり」も(部分的にかもしれないけど)読んでるみたいでした。
    今度ご紹介しますね。

  3. タツ より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10_6_4; ja-jp) AppleWebKit/533.18.1 (KHTML, like Gecko) Version/5.0.2 Safari/533.18.5
    いつも楽しく拝見しております。
    このコメント欄で気になったのですが、お知り合いの作家さんや探検部関係の方、編集者等のお仕事関係の方からのコメントに対しての高野さんからのご返信が多く高野さんの著作やブログ読者からのコメントには少ないかなーと感じています。
    お忙しい中でなかなかお時間もとれないと思いますが、かなりの数の高野さんファンがこのブログを見ていると思いますので。読者のコメントとの掛け合いが増えればますます面白いかと感じます。
    偉そうにすみません。

  4. kei より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; GTB6.5; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506.648; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    いろいろなご意見もあるかと思いますが、「ねばならない」的なのはらしくないですし、高野さんご本人が気楽に書ける状況が一番か、と・・・。

  5. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.0; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
    ああ、そうですね…
    知り合いの「公人」に返信が多いのは、どっちにしてもメールを書いたり電話したりしなきゃならないので、どうせならこのブログ上でやったほうがてっとり早いし、めんどくさくない…と、ただそれだけの理由です。
    読者の方のコメントはどれも楽しくじっくり読んでます。
    なるべく(気が向けばですが)返事もしようと思います。

  6. タツ より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; Intel Mac OS X 10_6_4; ja-jp) AppleWebKit/533.18.1 (KHTML, like Gecko) Version/5.0.2 Safari/533.18.5
    高野さん、こんばんは。
    あーなるほどそういう理由で。高野さんらしいですね(笑) 小さなことを気にしてしまってごめんなさい。
    それにしても倉敷においでになっていたんですね。自分の地元なのでプチニアミスしているかも知れませんね!これからも岡山の地から応援しています。

高野秀行 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年9月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑