漂流するトルコ
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様

小島剛一『漂流するトルコ』(旅行人)をついに読んだ。
もともとは私が小島先生に「(名著『トルコもう一つの顔』の)続編を出しませんか」ともちかけ、旅行人の蔵前仁一さんを紹介して出版にいたった本であるのに、
刊行されて一ヶ月半も未読だった。
いろいろ理由はあるが、一つの大きな理由は小島さんという人があまりに凄いからだ。
世界の言語を五十だか百だかを話し、毎日20キロ走るのを日課とし、
専門である言語学、民族学、宗教学は超一級、古今東西の文化に精通し、
料理は玄人はだし、
でもいちばん得意なのは音楽で、フランスで合唱団を率いている……
一見似たようなことをやっているが、小島先生と私ではイチローと少年野球の小学生くらいレベルがちがう。
小島先生を知れば知るほど、そのあまりの落差に気落ちしてしまう。
この本もすばらしいに決まっているから、それだけに読むのが辛い…という、なんとも小物感あふれる気持ちが先に立ち、
なかなか手をつけずにいたのだが、いい年して書店野宿とかやっているし、
酔っ払いだし、
もともとそんな大先生と比べること自体が間違っているとふっきれて、読んだ。
やっぱ、すごいわ。
紀行文というより、トルコ官憲との闘いの記録である。
トルコ当局に弾圧される少数民族と、その言語を研究する学者の魂の交流記録である。
トルコ好きな人も、そうでない人も
読書好きな人も、そうでない人も、
とにかく、みんなに読んでほしい歴史的名著だ。
野宿しながら読むともっといいかもしれない。
関連記事
-
-
震災のリアルを超える傑作
本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』という本を私はまったく見たことも聞いたこともなかった
-
-
スーツでヤブ漕ぎをする人を発見!
読売新聞のインタビュー取材を受けた。 「何か“原点”とか“こだわり”のある場所でインタビューするとい
-
-
名探偵なき大巨篇ミステリ
最近小説が読めなくなっていると前に書いたが、 とくにミステリはダメだ。 なにしろリアルでは原発や放射
-
-
『「本の雑誌」炎の営業日誌』は「脳内三国志」だ!!
土曜日の夕方、昼寝をしていたら、杉江由次『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版)が届いた。 これは
-
-
やっぱり見つからない…
月刊『SWITCH』の読書欄で『怪獣記』の著者インタビューを受ける。 行きつけの書店で「旅」に関する



Comment
AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; Ant.com Toolbar 1.6; GTB6.5; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
この素晴らしい作品が世に出るにあたり高野さんが関係していたのですね。
ほんまにいい仕事されましたね。
数年後には第3部が発表されることを信じて楽しみにしております。
ところで「第3章」によると前著=トルコのもう一つの顔 は「小島さんの激昂する文章は、このままではまずい」ことから「元の生の原稿・・・」ではないものを私たちは読んでいたのですね。
LPでは聞けなかった別テイクがCDでは発掘されて日の目を見る時代ですなんとかこっちも読みたいですねぇ。
AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
日本が世界に誇る辺境作家の高野先生が小物だなんて・・悪い謙遜です。
外国人の未踏地域を次々と踏破し、しかも娯楽として楽しく読ませてしまうなんて芸当が出来る人は世界中他にいないんですから。
それはそうと、「トルコ」は本当にいい本でした。
「私はいかなる政治思想も認めない。優劣はあっても、結局は政治家の道具だからだ。それよりも私は個人の自由を重視する」なんて、デューク東郷と小島先生しか言えないセリフだし、「トルコ人は支配地域が次々と独立していった経緯から領土を失うことを極度に恐れている」っていうのは、今の日本にも(多分中国にも)そのまま当てはまるんですよね。