*

ミャンマーがハリウッドになった!?

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

『ミャンマーの柳生一族』で、「ローマの休日」をパクッた武田鉄矢主演の映画「フォトグラファー・アンド・プリンセス」(原題は「ヨーロッパ特急」)がミャンマーでは日本映画の「名作」になっていると書いた。
最近知人より聞いたところによると、その人気はとどまるところを知らず、昨年、ついにこのミャンマー版リメイクが完成、VCD化されてミャンマーはおろか世界中のミャンマー人コミュニティーで売られているという。
日本映画をリメイクして世界中に発信って、ミャンマーはハリウッドか。
『月光がキスしたロマンチックの木』と題されたこの作品は
「ミャンマーの富豪の娘でポップ・シンガーのお姉ちゃんが東京に公演に来たけれど、きびしいガードに辟易して逃げ出し、日本人のカメラマン青年と一緒に日本を旅する」という内容だという。
なんだか凄い。
ご存知「ローマの休日」ではヘップバーン扮する某国の王女が逃げ出し、アメリカ人新聞記者と恋に落ちる。
それが「ヨーロッパ特急」では、無名ヨーロッパ女優扮する某国の王女が逃げ出し、冴えない雑誌カメラマンである武田鉄也とヨーロッパ中を旅し、恋に落ちる。
それが今度はミャンマーのスターが日本で逃げ出し、日本人カメラマンと旅をして恋に落ちる…。
どんどん視点(あるいは感情移入のポイント)がずれていってる。
特に今回のリメイクは、ズレがすごい。
一般的にミャンマー人は日本にあこがれ、その逆はないのだから、
ふつうなら当然ヒロインは日本人女性で、恋するほうがミャンマー人男性であるべきだろう。
そうでないと感情移入しにくい。
まあ、でもそんなことはどうでもいいのだろう。
実際のところ、主演の歌手役がミャンマーの人気歌手トウン・エインドラー・ボウという
こともあり「人気沸騰中」だという。
ちなみに、二人の会話はあやしげな英語でミャンマー語の字幕つき。
カメラマン役の青年はナガツカ・ミチタさんという聞いたことのない俳優さんで、それはまだしも、日本人の社長役に、新大久保にある老舗ミャンマー料理店「ヤッタナー」の社長さんが出演しているっていうのに驚いた。
東南アジアのハリウッドはキャスティングが大胆だ。
4枚組VCDだが、「各VCDの初めの20分は他の作品や政府広報の宣伝、コピーされた肝心のストーリーも途中画像や音声に問題がある所が多くてまいりました」とのことである。
でも、コアな映画ファン、ミャンマーファン、あと変なモノファンで、VCD再生機をお持ちという奇特なお方はぜひご覧ください。
“世界に向けての総発売元”は新大久保のアジア雑貨屋「フジ・ストア」だそうです。
さすが東南アジアのハリウッドはスケールがちがう…。

関連記事

シワユメは絶版ではなかった

また、とんでもない間違いをしてしまった。 去年の暮れあたり、『世界のシワに夢を見ろ!』(小

記事を読む

究極の野菜はフグ野菜

今年も年初から忙しくなかなか読書の時間がとれないけれど、 読んだ本は当たりが多く、充実している。

記事を読む

no image

「ムー民」は無敵?

毎月のお楽しみ、「ムー」10月号が届いた。 今月号も「謎のUFO生物クリッター」(UFOは円盤ではな

記事を読む

no image

野宿の話はつづく

「高野さん、この前うちの近くで野宿してたでしょ?」と水泳のY先生にレッスンのあとで言われて驚いた。

記事を読む

no image

biiru no aji

Sakenomi ni totte,atsui kuni de naniyorimo nom

記事を読む

no image

美味すぎる差し入れ

読者の方よりお酒をいただいた。 身内の方が、千葉県香取郡神崎町にある超老舗(江戸時代初期創業だそう

記事を読む

no image

趣味は仮説

私は仮説を立てるのが趣味である。何かを見たり聞いたりしたとき、「これはもしや××とつながるの

記事を読む

no image

無許可チムスルウォンとは何か

『腰痛探検家』の韓国語版(パク・スンヒ訳、Bookie出版)が刊行されたらしい。 韓国で本を読

記事を読む

no image

記憶がないからどうにも

1年に1度くらいのペースで、自分に「映画ブーム」が来る。 今年はなぜか今がそう。 昨日、伊坂幸太郎の

記事を読む

no image

『犬部!』

明日7日、妻・片野ゆかの新刊『犬部!』(ポプラ社)が発売される。 犬部とは、北里大学獣医学部に実在

記事を読む

Comment

  1. マカロニ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.0.3705; .NET CLR 1.1.4322)
    初めてコメントします。
    わたくし、「ムベンベ」を新刊当時に読んで以来の高野ファン。
    著作はほとんどリアルタイムで読んでいます。(最新作をまだ読んでいません・・・)
    売れない辺境作家・高野秀行は自分だけのものという意識がありましたが、思い立って、ネット検索してみたところ、HPはあるわ、ブログはあるわ、ミクシィではファンのコミュニティもあったりして驚きと共に妙な嫉妬を感じたりしています。意外と人気なのね・・・高野ちゃん・・・。
    先日のタイ旅行ではバンコクの書店で「アヘン王国潜入記」の英訳版を探しましたが、見つかりませんでした。
    何はともあれ、高野さんの活動これからも応援します。
    でも、応援が必要なほど肩に力入れてがんばってる感じじゃないですね。
    えー、なんと言うか、たとえば国会議員に立候補されるようなときには1票投じます。つまりその、いつまでもファンであり続けたいと思っています。
    最新刊、アマゾンで注文しました。
    今からワクワクします。
    では股。

  2. タカノ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)
    マカロニさん、大丈夫です。
    HPだとかブログだとかミクシイのなんとかだとかは
    つい最近の話です。
    まだ”意外と人気なのね”レベルで止まっており、
    これ以上は行きません。
    別に行かなくてもいいと思ってますし。
    (正直、今ぐらいが忙しくもなく、いちばんいいです)
    国会議員に立候補よりも、これから下り坂や逆風のときに
    応援してください。
    ともあれ、今までご愛読ありがとうございました。
    今後もよろしくお願いします。

  3. マカロニ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.0.3705; .NET CLR 1.1.4322)
    さっそくのご返事ありがとうございます。
    感激です。
    しかし、ホテルルワンダの日本公開を見てもわかるとおり、ネットの力はバカにならないですよ。高野さんの場合、「三畳記」や「トーキョー漂流記」のように一般の人が呼んでも十分楽しめる作品書けますからね・・・
    少なくともこれからの若者には船戸作品より、受ける気がする・・・。
    いつか機会があったら絶版になっている「幻の怪獣・・・」にサインでも頂き、お宝にさせてください。同世代ですので、どちらかが朽ち果てるまで高野ファンを続ける覚悟があります。(同世代なだけにムベンベを学生時代に読んだときの衝撃は本当に大きかった)
    だから下り坂も逆風もご心配なく。
    間違って売れっ子になってしまったら・・・
    「間違って本が売れちゃった高野秀行の極上アジアンリゾート宿泊記」でも書いてください。それはそれで楽しめそうですよ。
    いろいろしゃべり過ぎました。
    しばらくは黙ります。
    では股。

  4. フレディ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)
    最近ですねぇ、集英社からファクシミリが来まして「一部の書店でブレイクしつつある高野秀行の文庫のフェアの注文書」ですって!
    在庫はあるのですが思わず注文出してしまいました。結構マジで売れっ子になりつつあるのかも?

  5. nono より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.0.3705; .NET CLR 1.1.4322)
    「ヨーロッパ特急」実はオレも見ました。
    86年に行ったコンゴの天理教の宿舎で。
    初めてのアフリカで見たあれは、心に刻むものがありました。
    アホ臭いと言えば、アホ臭い話ですけどね。
    テーマソング、「フレンズ」は今でも、覚えてます。
    英語だったので歌えんけど。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑