*

異種格闘技戦、夏休み原理主義、未来国家

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

26日(日)、リブロ池袋店でジャーナリストの木村元彦さんの「争うは本意ならねど」(集英社インターナショナル)の刊行記念トークイベントにお招きを受けて、木村さんと「異種格闘技戦」。
レフリーは最近、出版界のNPO個人と呼ばれる「炎の営業」杉江さん。
杉江さんはこの本の出版に何も関わりをもたないのに、当たり前のように集英社インターから「司会をお願いします」と頼まれて登場するのだから、すごい。
なんとも驚いたことに、杉江さんは木村さんの全著作を読み直し、眠れぬ夜をすごして
この日のためにレジュメを作ってきたという。
私はそれを熟読し、「なるほど!」と膝を打った。
この通りに行けば素晴らしいイベントになるであろう——。
しかし、相手はシュートマッチの鬼、木村元彦である。
杉江さん苦心のレジュメをものともせず、いきなり初っぱなからセルビアの極右というディープな話に突入してしまった。
あとはもう勢いで突っ走るだけ。
レジュメが吹っ飛んだ杉江さんは最初呆然としていたが、私たちは二人とも
「杉江さんがいるから、大丈夫だろう」と安心しきって、自由なトークに専念。
プロレス的なエンタメノンフ文芸部部員との対談とちがい、「異種格闘技戦」は
ひじょうに刺激があり、やっているほうも充実感があった。
今後はなるべく肌合いがちがう人と対談がやりたいと思った。
         ☆         ☆        ☆
…と思ったのだが、昨日は宮田部長と対談。
もうこれで一体何度目の対談だろうか。鼎談も入れたら、5回目か6回目、いやそれ以上か。
今更話すこともないやと思っていたのだが、お互い新刊が出るとなれば、話も別。
こちらは打って変わって、ルチャリブレのような、ゆるくて楽しい馬鹿話である。
3月25日に発売予定である宮田さんの新刊「日本全国津々うりゃうりゃ」(廣済堂出版)は、「ときに意味もなくずんずん歩く」以来の、めっちゃアホな旅エッセイだ。
蓮見重彦が映画について「表層批評宣言」なることを言っている。
監督の性格や出身とか時代背景とかそういうことを一切考えず、映画の中のことだけを語るべきという趣旨だと私は理解している(間違ってるかもしれないけど)。
宮田さんの言うことがそれと実はそっくりなのだ。
例えば、彼は水中の生物や仏像や寺院などが好きだが、その由来とか歴史とか性質についてはとんと考慮しない。激しく否定している。
「表面しか見たくない」と言う。
まさに蓮見重彦ばりの「表層批評宣言」——と言いたいのだけど、
宮田さんは「批評」なんかしないし、「宣言」はもっとしない。
これは一体何か?
私はこの忙しいなか、原稿執筆も旅の準備もそっちのけでずっと考えていたのだが、「きっと、『夏休み原理主義』なのだ!」と思い当たった。
海とかジェットコースターとか変な形のものとか観光地とか、とにかく宮田さんは遊ぶのが大好き。しかも夏休み的な遊びが好きである。
で、歴史や性質、生態などの背景が嫌いというのは、つまり勉強が嫌いってことだ。
本人曰く「受験勉強で疲れてしまい、今それを取り返している」。
いったい何十年かけて受験勉強の疲れを癒しているのかと思うが、
そこが夏休み原理主義たる所以だろう。
そんなことを喋ったあと、ソマリ行きのお土産に日本の絵はがきを買おうと思ったら、
宮田さんがつきあってくれるという。
彼は原稿執筆ではいつも煮え切らずにうんうん言っているが、実生活ではおそろしく有能な人で、店の店員のところに言ってパッと訊いたり、「美術のコーナーに本の形になった絵はがきがあるかもしれない」とどんどん進んでいったりで、頼もしい。
あっという間に用件が終わり、びっくりしてしまった。
ついては、今年の夏は宮田さんと奄美大島へ行き、夏休み原理主義のトレーニングを受けようと思っている。
      ☆         ☆         ☆
それでまた「トークイベント」のお知らせです。
こちらは「未来国家ブータン」(集英社)がメインテーマ。
「旅の書店 のまど」にて3月30日開催のイベントがあっという間に予約が1杯になり、さらに希望者が多数おられるとのことで、急遽4月6日(金)に追加のイベントをやることになりました。
詳しくはのまどのHPをご覧下さい。
開始時間は3/30(金)と同じで、7時開場、7時半スタートです。

関連記事

no image

無料出張上映会&琉球映画

今月から始めた無料出張上映会の第一回が 台東区の施設で行われた。 主催者は旅好きな会社員の人。 その

記事を読む

no image

トルコの怪獣ジャナワール取材

にわかに周囲でいろんなものが動き出し、 ブログもすっかりごぶさたしてしまった。 まずは8月22日から

記事を読む

no image

同情無用

八王子の実家に行き、酒をたらふく飲んでから ホットカーペットの上でごろごろしていたら なぜかぎっくり

記事を読む

no image

多忙な土曜日

「本の雑誌」2月号届く。 私も「レフリー・ジョー高野」として参加したプロレス本座談会は、 なかなか

記事を読む

no image

カン様と韓国

先週、金曜日の話だが、上智大学最後のゲスト対談。 私の本を韓国に紹介、翻訳しているイヤギ・エージェン

記事を読む

no image

水泳大会&妻帰る

先週は虚ろな日々を過ごしていたが、 日曜日は前々から予定されていた巣鴨での水泳大会。 リレーのメンバ

記事を読む

no image

名画と辺境

半分壊れたパソコンを辛抱して使っていたが、 この度やっと新しいものを買った。 今度は奮発してDVD

記事を読む

no image

ヴォイニッチ写本の謎

エンタメノンフフェアで買い込んだ本を読んでいて仕事にならない。 佐藤あつ子『もう一度会いたい 思い

記事を読む

no image

甲子園が割れた日

中村計『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』(新潮文庫)を読む。 松井のこの出来事のとき、

記事を読む

no image

続・能力の限界

これが幻のポスター。 やっと、ブログにアップすることはできた。 しかし、これを元にポスターにするに

記事を読む

Comment

  1. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    「表層批評」わかります!マニア世界は後入りするの大変ですからね。好きなように楽しめばいいじゃん!って思いますけど偏狭になっちゃう…(/_\;)夏休み的な楽しみ方が一番いい。

  2. しげえつ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506.30; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729; MDDR; InfoPath.2)
    26日参加しました!とっても楽しい時間を過ごせました。ブログやツイッターもいいけど、やっぱり直接言葉を聞くのが雰囲気も感じられていいですね。
    トークイベントin奄美大島、ぜひ実現してください!
    やっぱり夜は寝袋で野宿でしょうか…。

  3. しげえつ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506.30; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729; MDDR; InfoPath.2)
    26日参加しました!とっても楽しい時間を過ごせました。ブログやツイッターもいいけど、やっぱり直接言葉を聞くのが雰囲気も感じられていいですね。
    トークイベントin奄美大島、ぜひ実現してください!
    やっぱり夜は寝袋で野宿でしょうか…。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑