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2013年に読んだノンフィクション・ベストテン

公開日: : 最終更新日:2014/01/06 高野秀行の【非】日常模様

毎年恒例となっている「今年読んだ本ベスト10」をやるのをすっかり忘れていた。
今急いでやります。

今年は小説を全然読まなかった。
最後まで読んだのは10冊に満たなかった。
今年、いい小説が出なかったのか、私の小説運が悪かったのか、そもそも私が小説に飽きを感じているせいなのか
よくわからない。

とにかく、これではベストテンどころかベスト3もつけられないので、今年はノンフィクションのベストテンだけをやろうと思う。

1.2013.09.23takaiken

生命の起源を解き明かすため深海に潜り、謎のヘンな生物を探すことに人生を賭けている男の物語――
ときたら、私がベストワンに選ばずして誰が選ぼう(いや、選ぶまい)という熱い気持ちで一位に決めた。
あまりに昭和四十年代世代のネタが多いため、私たちより上や下の世代には理解できないギャグも多々あるが、
研究者がこんなに熱い思いで研究しているんだということは誰にもわかるだろう。
それから、研究者にも「物語をつくる力」がものすごく大事だということが繰り返し書かれており、物語原理主義者の私にはそこもグッときた。
(あと、アメリカで何度も目撃したUFOの話が気になる…)

2013.09.15kaifu2.岡壇(おか・まゆみ)『生き心地の良い町』(講談社)

後輩の角幡唯介は冒険と探検のちがいについてこう語った。
「冒険は人に関する事柄、探検は土地に関する事柄」
岡さんのこの本はその定義によれば見事に「探検」の名に値する。徳島県の一見何の変哲もない田舎町が
全国的に見て突出して自殺率が低いことを地理的・歴史的・社会学なデータから証明していく様子はまさに
探検記のスリリングさ。
凡百の学術書やノンフィクションなら「自殺はなぜ多いか」的な問題提起で満足してしまうのに
「自殺が少ない」という証明が難しい道をあえて選び、しかも結果として「どうすれば自殺が減らせるのか」という日本人にとって最もシリアスな命題にはっきりとした解決策の見本を提示した。日本人は幸せをブータンにではなく、海部町に学ぶべきだろう。

2013.04.13akiray3.山口晃『ヘンな日本美術史』(祥伝社

今年、読者(あるいは受け手)としていちばん幸せだったのは、山口晃という稀代の画家・作家に巡り会えたことだ。私が画集を買って繰り返し眺めたり、展覧会にわざわざ足を運んだなど初めてだったし、その著書もまた
枕元に置いて寝る前に何度となくページをめくった。中でも本書が最高にいい。
いっぽう、今年最も残念だったのは、新潮ドキュメント賞を受賞できなかったことで、別に受賞自体はいいんだけど、本書が小林秀雄賞(新潮社主催)を受賞し、もし私がドキュメント賞をとっていれば、受賞式が同時、つまり山口さんと同じ壇上に上がれたのだった。それが何とも残念でならない。

2013.04.014.平野真敏『幻の楽器 ヴィオラ・アルタ物語』(集英社新書)

どうして本書が話題にならなかったのか全くわからない。
ヴィオラ奏者の著者がある楽器屋の片隅で見つけた謎の楽器。クラシックの本場のヨーロッパでさえ
誰も覚えていないが、実はリヒャルト・シュトラウスやワーグナーが惚れ込み、一世を風靡した幻の楽器だった……!!
謎解きとしての展開といい、最後のあっと言わせる(しかも感動する)結末といい、探偵役である著者の
魅力的な人間性といい、こんな素敵なミステリがノンフィクションとして存在していいのか。フィクションがつまらなく思えるわけだ。

2013.10.09kuroiyoru5.ジョン・ハワード・グリフィン『私のように黒い夜』(ブルースインターアクションズ)

1959年、人種差別が壮絶に残っていたアメリカ南部に、白人作家が肌を黒く焼き、色素の薬を飲み、
黒い顔料を塗り込んで黒人に化け、まさにシャネルズ状態で差別の実態をルポしたという、おそるべき奇書。
マジョリティの無神経さ、鈍感さをここまではっきりと書いた本はないかもしれない。アメリカの黒人差別は今はこんなにひどくないにしても、世界中で(日本でも)いろいろな差別は残っているし、その構造は似たり寄ったりだと痛感する。
本書を刊行後、著者はKKKに襲われ、半死半生の目にあっている。冒険・探検の傑作でもある。

6.内澤旬子『捨てる女』(本の雑誌社)

あらためて言うほどのことでもないけど、私は仲間褒めはしないのです。面白ければ人間的には好きでない作家の本も褒めるし、それほど面白いと思わなかったら身内や友だちの本だってお薦めしたりしない。
内澤さんのこの本はほんとうに面白かった。モノに対する狂ったような執着とそれを断ち切ろうとする
これまた狂ったような情熱がとにかく笑え、しかもあとでしみじみする。こういう本をもっと読みたい。

7.根本かおる『ブータン 「幸福な国」の不都合な真実』(河出書房新社)

私にとっては『殺人犯はそこにいる』以上の衝撃作。ブータンがネパール系住民を追い出し、10万人もの人が難民となったことは私も前から見聞きしていたが、なにしろ現場(ブータン南部やネパールの難民キャンプ)に行ってないので『未来国家ブータン』には軽く触れる程度しか書けなかった。また、ブータンの賢明な国王がまさかそこまでひどいことはやっていないだろうと思っていた。ところが、本書を読むと、どうやらやっていたようなのである。ブータンの先代国王は二十世紀を代表する人権犯罪者の可能性すらある。好意的に解釈しても、ブータンというひじょうに国民にとって住みやすい国家は、「住みにくくさせる可能性のある国民」を徹底して除外したことによって実現されたことになる。島田荘司もびっくりの大どんでん返しに唸ってほしい。

8.菊池良生『検閲帝国ハプスブルク』(河出書房新社)

グーテンベルグの活版印刷の発明とともに、検閲の歴史も始まった!…という設定だけでも面白いのに、
それからの取り締まる側と網をくぐり抜ける側の攻防や、聖書印刷をめぐる宗教戦争の中でドイツという民族意識が芽生えてきたなど、ヨーロッパ音痴の私でも楽しめる話が満載。検閲本リストそのものが裏のベストセラーになっていたという史実も笑える。

9.川内有緒『バウルをさがして』(幻冬舎)

バングラデシュに住む伝統音楽にして世界遺産でもある歌謡バウル。それは信仰なのか、哲学なのか、ただの路上の芸人なのか、芸術なのか。
謎に包まれたバウルの正体を追った本。本書を推薦したとき、「バウルはバングラでは普通に見ますよ」「日本にもときどき来て演奏してますよ」などと何人かの人が教えてくれた。
しかし、私が本書でいちばん感銘を受けたのは、18世紀末のバウロの聖人ラロン・フォキルの作った歌の歌詞について、列車に乗り合わせたただの一般庶民の人たちが「あれはこういう意味なんだ」「いや、ちがう、本当はこういうことを暗示してるんだ」と侃々諤々の議論をする場面。日本で詩の解釈をめぐって議論する人がいるだろうか? 国連やNGO、マスコミなどの陰謀(?)で、常に「貧困」だけが強調されるバングラにこんなに豊かな精神文化があることが痛快だった。

10.清水潔『殺人犯はそこにいる』(新潮社)

こんなにも後味が悪くこんなにも痛快な本というのも珍しい。こんな本がノンフィクションとして存在するから
小説なんか…って、この話はもういいか。
実は足利事件をもっと前から追及し、清水氏にも情報提供していたフリーのルポライター小林篤という人がいる。小林氏の『幼稚園バス運転手は幼児を殺したか』(のちに『足利事件(冤罪を証明したこの一冊の本)』と改題・加筆され講談社文庫)は大宅賞の候補にもなっているらしい。清水氏と小林氏は共同取材をしていたが、途中で袂を分かったため、本書でも小林氏のことはほとんど出てこない。実際には「ルパン」を探し当てたのも小林氏らしいのだが。つまり、小林氏の本も読まないと、内容が正当に評価できないので、とりあえず10位にランクを下げてみたが(そうでなければベスト3はまちがいなかった)、まあ、100点が90点か85点になった程度なので、依然としてお薦めである。

……という具合に、一気に書き下ろしてみた。
やっぱり、最近はノンフィクションのほうが断然元気のように思えるんだけど、ちがうのかな?
個人的には来年は「ミステリ・ノンフィクション」をもっと集中して読んでいきたい。謎解きのカタルシスが得られるようなやつだ。よいミステリ・ノンフィクションをご存じの方はぜひお知らせ下さい。

ではみなさま、良いお年を!!

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