*

おっぱいとトラクター

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


家に本があふれ出し、また本棚を買うか、古い本を処分するか、
あるいは「居間に本を置いてはダメか」と妻に交渉するかしないといけないと思っていたのだが、
よくよく見ると、読んでいない本がたくさんある。
読むべき本がたくさんあるのに、新しい本をじゃんじゃん買うからこういうことになるのだ。
「俺が買わずに誰が本を買うのか」なんていう使命感も手伝って、無闇に本を買うからだ。
ここは一つ心を鬼にして、今年はもう本を買うのをやめようと決意した。
今うちにある未読の本だけで十分過ごせるはずだ。
そう決意して本棚を眺めると、あら、不思議。
未読の本はみんな面白そうなのだ。
私好みの本ばかりだ。
そりゃそうだよな。
自分が読みたくて買ったんだから。
で、最初にマリーナ・レヴィツカ『おっぱいとトラクター』(集英社文庫)を引っ張り出して読んだら、これがもう大傑作でぶったまげてしまった。
妻を亡くして2年という84歳のじいさんが、ウクライナから来た36歳、バツイチ巨乳女にたぶらかされて結婚すると言いだし、不仲だった二人の娘が一致団結してそれを阻止しようとするというイギリスの話。
軽いコメディかと思えば全然ちがう。
恋愛、移民問題、老人虐待、そして旧ソ連、そしてウクライナの暗く、重い歴史が二重、三重、四重にかさなっていく。
しかも、これは七割方、著者の体験談らしい。
でもノリは常に軽快。エンタメノンフのよう。
84歳のじいさん自身、実は1910年代ウクライナ生まれ。
赤軍と白軍が内戦を繰り広げているときだ。
これは佐藤亜紀の傑作『ミノタウロス』(講談社)の舞台そのままで、
つまり本書は『ミノタウロス』の超・後日談としても読める。
在庫一掃読書は幸先がいいぞ!

関連記事

no image

独自の視点

最近こんな本も読んだ。 木村晋介『キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る』(筑摩書房)。 あくまで

記事を読む

no image

アホは伝染する

「みらぶ~」命名者の仲野徹先生がイギリスの科学誌「ネイチャー」に論文を発表されたと新聞記事で読んだ。

記事を読む

no image

「王様のブランチ」撮影

『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)がTBSの「王様のブランチ」にとりあげられることになり、今

記事を読む

no image

「移民の宴」ソマリ篇?

長生きはするものである。 かつてレトルトカレーを「めんどくさい」という理由で温めずに食っていた

記事を読む

no image

ハサミ男、驚愕のラスト

前々から気にはなっていたが、読んでいなかった殊能将之『ハサミ男』(講談社文庫)を読んだ。

記事を読む

no image

名探偵なき大巨篇ミステリ

最近小説が読めなくなっていると前に書いたが、 とくにミステリはダメだ。 なにしろリアルでは原発や放射

記事を読む

no image

決起集会よりも

月曜日、幻冬舎の編集者2名と『メモリークエスト』決起集会。 もう原稿は完成しており、クオリティの高さ

記事を読む

no image

佐藤圭作監督『人間椅子』

私の学生時代からの数少ない探検部以外の友人である佐藤圭作が、 今度、商業映画監督としてデビューする

記事を読む

no image

dancyuの味噌汁

本日発売のdancyu2月号は味噌汁特集。 私も戦国時代以前から伝わる元祖インスタント味噌汁を再現

記事を読む

no image

多忙につき

多忙である。 おそらく一般の人からすれば「まあ、ふつう」くらいだと思うが、 私のレベルでは「超多忙

記事を読む

Comment

  1. 天野 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; YTB720; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506.648; .NET CLR 3.5.21022; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 1.1.4322; YJSG3) chromeframe/6.0.472.63
    居間に本を置き始めると、止まることなく本が増殖するのでご注意下さい。

  2. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    まだまだ新しい本との出会いが待っているのです。読み終わって再読しない本は売り払いましょう。その代金で「謎の探検家・菅野力夫」を手に入れて見ては如何でしょう?戦前の忘れられた探検家が再発見される過程を描いており、何より写真が面白い。オススメの一冊です。

  3. Lehman Packer より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
     本の雑誌 杉江さんの「炎の営業日誌」で「黒檀」をポチってから、このブログで「おっぱいとトラクター」をポチろうと思いましたら出来ませんでした。
     
     せっかく毎日のように書評を書かれてるのですから、自分の作品だけでなく全部アフィリにした方がよろしくないでしょうか?
     読者の手間も省けますし。

  4. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 6.0; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
    アフィリ?
    新しい用語ですねー。

天野 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑