*

ジプシーのヒンディー語

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

旧ユーゴのエミール・クストリッツァ監督「白猫・黒猫」をDVDで観た。
セルビア付近とおぼしき土地に住むジプシーのギャングや不良どもの
てんやわんやの騒動を描いたラブコメである。
「ジプシー」という言葉は「エジプト」に由来し、今は差別用語だとして
使わない流れにある。
(最も、ジプシー・キングズとかジプシー・ブラス、ジプシー・ダンスなど
当の本人たちが自称することはよくある。こっちの方がわかりやすいからだろう)
ともあれ、映画を観ていて「おっ!」と思ったのは言葉。
主人公がロシア人の密輸業者から石油を買い付けるが、ドラム缶を空けたら水だった。
そこで彼は「パーニー!」と叫ぶ。
パーニーとはヒンディー語で水のことだ。
さらに、ロシア人に騙されて背負った借金を返すために、今度は石油を満載した列車車両を盗もうとくわだてる。
夜、線路沿いに潜んで、通る列車の車両を「1,2,3…」と数えていくのだが、
「エーグ、ドー、ティーン、チャール…」とこれまたヒンディー語。
5まではヒンディー語と全く同じで、6と7はちがう音だった。
アンガス・フレーザー「ジプシー」(平凡社)という本で、
ジプシー(自称は「ロマ」「ロム」「ロマニ」)はインド北西部が起源で
言葉もサンスクリット語から派生したものと読んで知ってはいたが、
こんなにもヒンディー語とぴったり一致するとは思わなかった。
言語オタクの私としては感動モノだった。
ただ一つ疑問が。
この映画はセルビア語映画のはずだ。
ジプシーの言葉が入り交じってセルビア人はわかるのだろうか。
元はセルビア語による字幕がついていたのだろうか。
それとも日本人が中国語の「イー、アル、サン、スー…」や「ニイハオ」くらい何となく知っているように、
この程度のジプシー語(ロマニ語)は何となくわかるのだろうか。

関連記事

no image

アラブ音楽の決定版CD

仕事場である辺境ドトールでバイトしている女の子が念願の音大に合格したというので、 お祝いに「ベリー

記事を読む

no image

祝!第3回 酒飲み書店員大賞受賞

 私の敬愛するタマキングこと宮田珠己の『東南アジア四次元日記』(文春+文庫)が 第3回酒飲み書店員

記事を読む

no image

アジア新聞屋台村プレイバック

 昨日、突然5年ぶりにエイジアン新聞社の劉社長から電話がかかってきた。 「急ぎの仕事があるからやって

記事を読む

no image

プロレスの罠

80年代から90年代にかけて、年齢としては16歳から30歳くらいまで、 私はプロレスにものすごく夢

記事を読む

no image

間違う力の巨人、インドにデビュー!!

人は私に「間違う力」があるという。 いや、そんなことはない。 というか、私のやってることなど間違い

記事を読む

no image

イスラム飲酒講演会

昨日は講演が2つ連チャンであった。 一つは午後、小田急線の鶴川にある和光大学。 主にフィリピンや在日

記事を読む

no image

抱かれたい路上の男ナンバーワン

先日紹介した『TOKYO 0円ハウス0円生活』(大和書房)の著者・坂口恭平が その本に登場するスーパ

記事を読む

no image

千葉のソマリランド人

千葉県東金に住むソマリランド関係者がいる、と前に書いた。 曖昧な言い方をしてしまったが、その人物、実

記事を読む

no image

Shuto ni modoru

3shukan buri ni shuto no Thimphu ni modotte kita.

記事を読む

バングラのセレブ秘密酒宴

昨夜は必死に起きてW杯ドイツ対アルゼンチンを見ていたのだが、ちっとも点が入らず、メッシも活躍しな

記事を読む

Comment

  1. nil より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; rv:12.0) Gecko/20100101 Firefox/12.0
    黒猫・白猫は封切り時にボスニアで見ましたが、セルビア語で字幕ついてましたよ!日本語字幕がなかったのが残念でしたが・・

  2. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; WOW64) AppleWebKit/535.19 (KHTML, like Gecko) Chrome/18.0.1025.162 Safari/535.19
    セルビア語で字幕付き?!
    全篇に字幕ですか、それとも一部にですか?
    それにしてもあれを封切り時にボスニアで見ている人が
    このブログの読者の中にいるとは…。
    すごいですねー。

  3. hu より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0; BOIE9;JAJPMSE)
    「インディアン」や「エスキモー」も自称として使っている人びとがいますよね。「由来がどうであれ我々はこの名前に誇りを持って使っている」って。
    それにしてもボスニアで見ていた人がいるなんてすごい。

  4. nil より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; rv:12.0) Gecko/20100101 Firefox/12.0
    >> 全篇に字幕ですか、それとも一部にですか?
    ロマ語の部分(とはいっても主要キャラはロマ人ばっかりなのですが)だけだったような気がします。
    そうそう、UMAではないのですがピラミッド騒動には興味ありませんか?
    http://en.wikipedia.org/wiki/Bosnian_pyramids

  5. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; WOW64) AppleWebKit/535.19 (KHTML, like Gecko) Chrome/18.0.1025.162 Safari/535.19
    wikiを見る限り、科学的には全面否定されてるみたいですね。
    ピラミッドみたいな古代遺跡はたとえ興味を持っても
    自分では発掘も調査もできないですからねえ。
    それなら未知の遺跡を「発見」するという方がやりたい。
    あと、気になるのはソマリランド北部のピラミッドですね。
    ほとんど調査されてないようです。
    伝説もすごいし…。
    詳しくは連載をお楽しみに!

  6. nil より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; rv:12.0) Gecko/20100101 Firefox/12.0
    おお、ソマリランドにピラミッドがあるとは!
    在スウェーデン大使館に記述があるのもすばらしいですね!
    http://www.somalilandembassy.se/tourist_information_tourism.html
    ソマリランドの連絡おもしろいです。普通の人はラピュタというキーワードからソマリランドに関心を持ち始めるのでしょうが、私は高野さんの連載を読んでいたらラピュタを見たくなりました(笑)

  7. Valerie より:

    These blisters average, there is no evidence to support the view
    that low dose exposure to these treatments causes significant harm.
    Compare to 500 rash blisters that can ooze and cause itching.
    If your baby develops a skin rash. Baths do not spread gallstone flush recipe.
    Each year 80, 000 people were hospitalized for gallstone flush
    recipe, medical experts say it may not provide
    such protection. A study of more than 170, 000 children.

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑