*

犬の力

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

前に評判になったミステリに『犬の力』とか言う本があった。私にはあまり面白くなくて途中で止めてしまい、どこかへ行ってしまったから詳しいことは忘れたが、たしか犬の力とは聖書の中で「邪悪なもの」として書かれているということであった。

しかし、私が今回、福島いわき市から南三陸にかけての旅で実感したのは「犬の力は素晴らしい!」ということである。
別に「旅の相棒(バディ)にぴったり」とか「癒される」という話ではない。

そんなことより大事なのは、「犬と一緒にいると怪しまれない」ということだ。

私は四十半ばにもなって、無精ヒゲにハーフパンツ、サンダルというかっこうだし、同行した後輩にいたっては身長185センチ体重90キロの巨漢であるうえ、二十年も歌舞伎町に住んでいたため、体から隠しようもなく「無頼」の気配が漂っている。

そんな二人が、平日の真っ昼間から街や田んぼや原発周辺などを車でうろついたり、あてどもなく歩き回ったりしているのだ。
ものすごく怪しい――はずなのだが、犬と一緒にいるとなぜかそう思われない。
しかも、うちの犬はチビで、超ビビリ。もう成犬だが子犬に見える。誰が見ても人畜無害。

道端で出会う人が、お年寄りでも女性でもというか、むしろそういう人たちが率先してこちらに近づき、
「あれ~、かわいいね~」とか「どこから来たの?」と犬に声をかけ、ついでに私たちにも声をかける。
旅館でも私たちは仲居さんたちに人気だった。

私と後輩が二人で歩いていたら絶対に「あれ~かわいいね~」とか「どこから来たの?」なんて言われることはないだろう。仲居さんの間で人気を博すこともなかったろう。
警察に職質をされても不思議ではないし、まあ、普通の人は近寄らないと思う。

上にアップした写真だってそうだ。犬が一緒だからかろうじて許されるが、私と後輩だけのこんなツーショットをブログにアップしていたら相当ヤバイ。

犬の力。それは身分証明書やパスポートよりも強く、私たち、うさんくさいオヤジを社会の白い目から守ってくれるのである。

(写真:楢葉町の天神岬スポーツ公園にて。ここには写ってないが、第一原発の先端部分がわずかに見えた)

 

関連記事

no image

名探偵クイズ

うっかりしていたのだが、5月に本の雑誌社から『作家の読書道3』が刊行されていた。 柳広司、阿部和重

記事を読む

no image

ミステリ・ノンフィクションの傑作『龍馬史』

ちょっと前まで「学者」というのは圧倒的に年上の先生ばかりだった。 だが今は本のプロフィールを見

記事を読む

2013年に読んだノンフィクション・ベストテン

毎年恒例となっている「今年読んだ本ベスト10」をやるのをすっかり忘れていた。 今急いでやります。

記事を読む

no image

『怪獣記』がいよいよ…

トルコの怪獣ジャナワール探しの本がようやく手を離れた。 写真にカラーとモノクロがあり、しかも章ごと

記事を読む

no image

世界的に売れない作家へ驀進!

 本日、マレーシアから帰国した。  今回の目的は「世界的に売れない作家」を目指すというもの。  実

記事を読む

no image

異種格闘技戦、夏休み原理主義、未来国家

26日(日)、リブロ池袋店でジャーナリストの木村元彦さんの「争うは本意ならねど」(集英社インターナシ

記事を読む

no image

高野秀行の新刊、続々?!

「高野秀行」の本が続々と出ている。 今度は五段ではなくたしかに私の本なのだが、 韓国語版だ。 すで

記事を読む

no image

酒よりカツカレー

モガディショからソマリランドのハルゲイサに戻り、さらに今日、飛行機で隣のジブチに出た。 世間のイメー

記事を読む

no image

10年遊んで暮らした人の話

私が解説を書かせていただいた川上健一『ビトウィン』(集英社文庫)が 発売された(たぶん)。 本来い

記事を読む

no image

『異国トーキョー漂流記』新装版

『異国トーキョー漂流記』(集英社文庫)が今年のナツイチ(集英社文庫の夏の百冊)に 入るにあたり、カ

記事を読む

Comment

  1. 山中温泉 より:

    マドちゃんかわいいです。お母さんが旅行中なのでお父さんとお留守番ですか?
    昔からTVも子供と動物には勝てない、といいますからね。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑