ジャングルのエキスパートを自任する人々であっても
全くの手ぶらで熱帯ジャングルへ入ることには躊躇があるに
違いない。
エキスパートとは恥ずかしくて言えないが
それなりのレベルであると自負している私にとって
一番あこがれるのが、夏の朝、近所に散歩に行くような調子で
ふらりとジャングルへ入り、3日後に両手になにがしかの
お土産をぶら下げて帰ってくるような男である。
熱帯アジアのジャングルに住む先住民族であっても
通常は二人以上で入るように気を付けているし、
散歩がてら3日間もジャングルで過ごすということはまずあり得ない。
だが、まるで散歩に行くような軽装ですいすいと入っていくのは事実である。
サッカーパンツ(もちろんショート)、裸足にスニーカー(時にはビーチサンダル)、
Tシャツなど身につける物の多くはなぜそんなところがというような場所が破けたり
穴があいたりしている。腰にはサックを紐で腰にくくりつけた大型の蛮刀
(トラックの板バネ型サスペンションを研いで作るらしい)があり、これが
唯一の特殊な持ち物だ。
養生シートを繊維にして編んだような袋(建設現場でちょっと大きめの金具などを
入れている袋だが、日本ではあまりみたことがない)に細紐をつけて作った
ザックを肩にかけると、これで出発の準備は終了。
ザックの中に水筒はないことが多く、何か特別なものが入っている様子もない。
たいていの場合、ほぼ空である。
これだけの装備(装備といえるかどうかさえ疑わしい)と現地調達した
大きな草木の葉や、石、水などを使って、3−4日の生活は可能なのである。
なんとも優れた能力ではないか?
以前、自分が散歩に行く格好でジャングルに何日滞在出来るかという命題を
課し挑戦してみた。といっても全てを完全に放棄するのは心配なので、
毎回のジャングル行きに際して、通常のフル装備から、一点二点と放棄して、
いわばシミュレーションを行ったわけだ。
同行の現地先住民のガイドは上記の最低限の装備は持っているし、
それでなんとかなっているわけだから、それほど危険ではない。
その結果、普通に散歩する際の装備と自分の能力から考えて絶対に不可能である
作業がわかった。『火をおこすこと』である。
湿気の多い熱帯ジャングルで特別の道具なしに火をおこすというのは、
それはそれは大変なことなのである。
これだけは、私の散歩装備では解決できない問題であった。
ある時、先住民族のガイド二人に質問してみた。
「自分で火をおこすこと、出来る?」
二人は、驚いたように顔を見合わせると、周囲の落ち葉の中から
乾いていそうなものを集めはじめた。
そして、ポケットからおもむろにライターを取り出すと、
当たり前のように落ち葉に火をつけるのだった。
白い煙が立ち上り、やがてメラメラと火の手が上がると、
まだ炎を残す枯れ葉を手にして、口にくわえたタバコに
火をつけ、にこにこした目でこちらを見たのである。
そう、連中は寝るときにもタバコを離さないような
ヘビースモーカーだった。。。
つまり散歩するのにライターを持たないような
軟弱な健康オタクではなかったのである。
ジャングルでの生活はいつも、
ちょっとだけ自分を謙虚にしてくれる。

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