銃撃

先週の土曜日(2月3日)、
クアラルンプール郊外のショッピングモールで家族で食事をしていると
『パーン』という爆竹のような乾いた破裂音が数回聞こえてきた。
最初の2発ぐらいまでは、『ん?何だ』というのんきな好奇心にかられて窓の外を
眺めていた客達も、事情を察して大慌てで床に伏せだした。
これは銃声である。しかも一向に止む気配がない。
銃撃戦だ!家族をボックス席のテーブルの下に押し込んで、息を潜める。
ボックス席以外のテーブルの客も我々の席に避難してきた。
銃声が止み、そろそろと首を出して状況を調べようとしてみると、
吹き抜けのコンコースをはさんで、反対側の二階のバルコニーから散弾銃か何かを
こちらに向かって構えている男の姿が見える。まだ続いている!
その時頭に浮んだのは、『イスラム過激派のテロリストではないか!』ということだ。
このレストランはアメリカ資本の『ケニーロジャーズ・ローストチキン』
もしかしてターゲットか!?
へたに目立つと狙われる。
ガラス張りで外から丸見えのレストランである。
するとテーブル下に潜り込んだ拍子に頭でもぶつけたのか赤ん坊が泣き出した!
静寂の中、ひときわ響き渡る鳴き声…頼む泣き止んでくれ!!
…という緊迫した状況の中で思い出したのは、
もうかれこれ10年ぐらい前になるあの出来事であった。


 
KLからそれほど離れていないある森林に1人で入った私は、森の住人達が
時々使っていることが想像できるかなりはっきりとした獣道を辿っていた。
時々現れる小さな枝道は本当の獣道で、かなり大きな動物が通って出来たものだ。
それらは大概、トンネル状になって薄暗い薮に吸い込まれていく。
薄暗い薮の先がどうなっているのか好奇心がぴりぴり刺激されるけれども、
やはり薄気味悪いし、何より高さが100cmそこそこのトンネルでは諦めざるを得ない。
道が尾根のようなところにさしかかると樹高40メートルの木々に囲まれた
薄暗いジャングルから、−風のせいだろうか−低木が多く見通しのよい場所に変わった。
ここでは枝道もトンネルに入らないばかりか、明るくて恐怖感も少ない。
ということで好奇心から踏み込んでみるとすぐに変なものが目に付いた。
数本の潅木の枝が下に向かって弓状にしなっている。
その先から伸びた数本の針金の先の地面には
かなり太い番線(針金)で出来た輪のようなものがある。
かなり大型の動物を対象にした罠であることは間違いない。
そして、私はこれが通常トラを対象にしているということを知っていたのだ。
トラが番線の輪にかかると地面に留めてある針金がはずれ、
しなった潅木が輪をひっぱり締め上げると同時に
足を空中に引き上げるという仕組みだ。
シンプル・バット・エフェクティブ。
さて、この罠を発見した私はすぐさま、これを破壊にかかった。
トラは保護動物だから、という正義感もあるが、この罠が人間にとっても
危険だということもその理由だ。
山の中でこの罠にかかって逆さ吊りにでもなったら、どうすればいいのか。
すると、潅木の隙を通して比較的よく見える薮の奥から人の叫び声とともに
乾いた破裂音が聞こえてきた。…銃声である。
このときはとにかく逃げた。何しろ、銃声のした薮から密猟者(に違いない)が
立ち上がってこちらに向かって銃を構えているのだから。
尾根付近から転げるようにして走った。その後何発かの銃声が聞こえた気がする。
しかし錯覚かもしれない。本当に聞こえるのは自分が立てている無闇に大きな
逃亡音だけである。枝を折ったり、草のつるを引きちぎったりしながら走り、
逃げ道をややはずれた薮に飛び込むと息を潜めた。
追跡者がいるのかどうかもわからない。
息を潜め、息を整えつつ耳を澄ましていると…
静寂を破って、自分の近くからとてつもなく大きな音が聞こえた。
携帯電話だった。
頼む鳴り止んでくれ!!
強盗事件その後 =====
…2月4日(日)英字紙スター(thestar.com.my)によれば
2月3日土曜日午後8時22分ごろ、スバンパレードショッピングコンプレックス内の
宝石店に5人の武装した強盗が押し入り、セキュリティガードと撃ち合った結果、
セキュリティガード2人が死亡、1人が重傷を負い、犯人の1人が死亡した。
現場では約50発分の薬莢が発見された…
…2月5日(月)同じくスター紙によると、
昨日のスバンパレード宝石店強盗は発生からおよそ9時間後にスピード解決した。
合計7人の強盗グループが、スバンパレードに近いバジェットホテルと、クランタン州の
タイ国境付近で逮捕された。6人はタイ人で、1名がマレーシア人とのことである。
そして2月7日のスター紙にもっと恐ろしいことが…
今回の事件は昨年7月以来ポーコン宝石店で起きた3回目(!)の強盗事件である…
武装の様子

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