沈香はトラの敵

以前、マレーシア南部のジャングルに入った時、
ガイドとして雇った先住民族の男性が川の浅瀬で何かを拾い上げた。
ちらりと覗くと、大きめの焼き芋程度の木切れのようだったが、
後生大事にバッグにしまっていた。
『gharu』という名の香木樹脂であるということであった。
翌日の早朝、突然、真面目な仕事ぶりで頼りにしていた彼が
仕事を放棄して村へ帰りたいと主張し出した。
どうやら昨日の木切れが原因らしい。
これが沈香との出会いだ。


沈香(じんこう)というのは、
東南アジアの森林で生育するアキラリア属植物の樹液に、
ある種のカビが付着してできる芳香樹脂のことである。
これが香道や仏教やイスラム教の式典などで珍重されるため、
日本や他の仏教、回教国ではびっくりするほどの高値で取り引きされている。
ベトナム産のうち、『伽羅(きゃら)』と呼ばれる最高級品は、
正倉院に保存されているほどの逸品だが、グレードの低いものでも、
かなりな値段で取引されている。
この時彼が拾ったものがどの程度のグレードかはしらないが、
それでもRM3000(当時約10万円)は下らないとのことだった。
そんな貴重なものを手元に置きながら
一週間も山にいたくないという気持ちは理解出来る。
(あれ?トシが信用されていなかったってことか?うーむ…)
さて、この沈香、この植物があれば必ず手に入るという訳ではない。
何やら非常に微妙な環境が品質のよい沈香を生み出すと言うことで
捜すのは容易なことではない。
先ほどの彼のように川の底から見つけだすこともあれば
土中から掘り出すこともあるというから、特別な知識や経験が必要である。
かくして高品質の沈香を求めて熱帯ジャングルの奥地に何週間も滞在する
『沈香ハンター』が生まれた。
彼らは塩、砂糖、油などの最低限の食品を持ち込み
(どうやら米は持ち込んでいるらしい)魚や動物の肉は現地で調達する。
つまり密猟である。これが実は大きな問題だ。
小はマメジカから大はトラやサイにいたるまで罠や銃を駆使して取りまくる。
サイやトラは様々な部位が漢方薬の原料として高額で売ることが出来るので、
もしかすると沈香以上に力を入れているのかもしれない。
2005年1月からワシントン条約により、
沈香は輸出入規制品目に指定されたそうなので、
原産国の許可を得ずに取り扱うことは出来なくなった。
これにより沈香ハンティングが減少するのか、
それとも希少価値が高まり、ますます活発になっていくのか、
興味を持って見守っていきたい。
最後に、マレー半島の『沈香ハンター』はほとんどがタイ人である
ということをご紹介しておこう。
このことが、先に記した専門性をタイ人が持っている
ということを示しているのか、それともタイに沈香密輸の中心があることの
証左なのかはわからない。
どちらにしてもトラにとっては迷惑な話だ。

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