ジャングルの薬用入浴剤

首の負傷をかばうせいなのか、肩や背中がすぐに凝ってしまう。
そんなわけで日本にいる時には、薬用入浴剤を使うことが増えてきた。
筋肉の張りを和らげたり、喉の痛みを鎮めたりと、謳われている効能は様々だが
なかなか気持ちがいいものである。
ちょっと前に
ジャングル内で涌いている温泉について書いたが
今回は動物の入浴について書いてみたい。


動物の入浴というと思い浮かべるのは、温泉につかるニホンザルだが
残念ながら、そういった人間同様の温浴習慣は熱帯で聞いたことがない。
傷を治すためにミネラル豊富な鉱泉につかりに来るということはありそうだが。
もちろんネコ科にもかかわらずトラは水浴が好きだし、
ゾウの水浴びなどはごくごく一般的ではある。
しかし、一般的に動物の入浴といえば『泥浴び』で決まりだろう。
『泥浴び』は森林内の『ぬた場』と呼ばれるぬかるみで体を泥だらけにし
近くの樹木の幹に体をこすり付けてこそげ落とす行動である。
泥だらけになる行動だけを指す場合もある。
以下は日本動物行動学会のニュースレターからの引用。

泥浴び行動は,体温調節や外部寄生虫の除去,
メスを巡る闘争で受けた傷の消毒といったものと
基本的には関係しているとされている。

人の感覚からすれば泥は洗い流してさっぱりしたいところだが、
泥の中の成分を利用して傷の治療や虫除けをしているのだとすれば
洗い流さずにいるほうが効果は高そうだ。
野生動物の生活の知恵には本当に感心させられるが、
驚くなかれジャングルの動物には、さらに高度な泥浴テクニックを使う連中がいる。
この写真を見てもらいたい。

南洋材としても有名なキョウチクトウ科ジェルトン(Dyera costulata)であるが、
樹皮がすっかりはぎとられていることがわかるだろう。
この木は幹に傷をつけるとねばねばした白い樹液を分泌する。
これがチューインガムに粘りをつけるために使われるジェルトンである。
マレーシアの一部のイノシシはぬた場で泥だらけになると、
この木にやってきて牙で幹に傷をつけ、流れ出す樹液を体にすりつける。
樹液のねばねばを使って、体についたダニなどの寄生虫を落とすのか
それとも樹液に含まれるなんらかの薬効成分が効くのかはよくわからないが
いずれにせよ、通常の泥浴びにこの白い樹液を加えていることは間違いない。
体を木にこすりつけるところまでを泥浴びだとすると、これはまさに
薬用入浴剤の利用ではないか!
薬用植物の研究をしている立場としては、ジェルトンの成分分析は
是非したいと思っている。除虫効果のある成分が出てくるのかどうか?
動物行動学の見地からしても非常に面白い研究が出来そうだが
マレーシアではそれらしい報告は認められない。
対象が禁忌動物ブタの近縁だから、というのはうがちすぎだろうか。
いずれにしても野生の知恵というのは素晴らしいものだ。
(マレーシアはイスラム国)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です