2,3時間も過ごせばすっきりする、トシの特効薬ジャングルに
6時間も居たにも関わらず、不完全燃焼。
さしものジャングルも、トシの萎えた心を
再び奮い立たせることは出来ないのか?
翌日、職場の裏山をアタックする。
いや、アタックは大げさだ。
ここは前にも書いたように、ほんの丘程度の場所だが、熱帯雨林のムードはある。
いずれにしても、クアラルンプールから最も近い、熱帯雨林の一つである。
出来るだけワイルドな感覚を受けて、凍りついた心を融かすことが重要なので、
通常ジョガーが利用するルートをはずして思い切りさびれた道を選ぶ。
1800Haもある森林内の道の中で、今まで通ったことがないルートだ。
森林内を巡る林道はあっという間に、下草に覆われる。
高木が樹冠を覆う森林内は林床に光が届かないので、意外と下草は少ないが
切り開かれている林道は、雑草が伸び放題になる。
新しい倒木がいくつも現れる。
ここ数日の雨とその前後の風はかなり強烈だったことを思い出した。
1時間も歩いただろうか、林道は細くなりやがて、薄暗い森林の獣道に変わってしまった。
急な坂道と薄暗い森林に胸をときめかせて進む。これこれ、こうでなくちゃ。
突然視界が開け、明るくなったと思うと、私は小さな崖の
上からきちんと整備された舗装路を見下ろしていた。
舗装路を目で追うと近くの町の貯水タンクに繋がっていた。
今回は本当にジャングルに嫌われているようだ。
あきらめて舗装路に降り、町のにぎやかな集落を抜けながら
まるで子供の抵抗のように、オフィスとは反対の方向に歩くことにした。
比較的大きな道を囲む大型の集合住宅を横目に、
どんどん進んでいくと、家並みが切れた頃にクアラルンプール市外とは
反対側に連なる低山に向かって進む舗装路にぶつかった。
躊躇なくこの道を選択する。
舗装路なんか歩いている場合ではない、とにかく森林に戻りたい一心である。
道の脇を流れる川幅3メートルほどの清流に沿って20分も歩いただろうか、
舗装路が終わり、少し開けた場所に出ると、複数の犬がいっせいに吠え掛かってきた。
野犬かと思って少し不安になったが、どうやら、近くに点在する竹と木で出来た
高床式の家の飼い犬のようだ。
犬に触ることを禁じられているモスリムは犬を飼うことをしない。
したがってこの犬達は先住民族の飼い犬だということがわかる。
中華系やインド系の人々は高床式住宅にはすまないからだ。
犬は吠え続けているが、襲ってくる気遣いはない。
しかし、犬の吠え声につられて、紛れ込んできた不審者を
いぶかしむ先住民族の人々が家の外に姿を現しはじめた。
遠巻きに、しかし着実に近づいてくる人々の無言の圧力に押されながら
正面の丘に建つ、いかにもそれとわかる村長の家にまっすぐと向かうしかなかった。
さっきまで舗装路と集合住宅が代表していた町の顔はいつのまにか姿を消し、
どことなく不穏な空気に包まれて先住民族の集落を進む自分がいた。
私は一体どこにいるんだろう?
続く