ドラえもんのアジアにおける人気については
今更語るまでもないだろう。
当地マレーシアも例外ではない。
ドラえもんの取り出すユニークなアイデアに満ちた、
未来の機器の数々には子供ばかりか大人だって魅了される。
しかし、ドラえもんの魅力はそれだけではなく、
ものの見事に確立された登場人物達のキャラにもある。
個性派ぞろいのキャラの中、トシの一推しはやはり『のび太クン』である。
ドラえもんに頼りっぱなしの、何をやっても駄目な彼だが
心はものすごく優しいし、時々必死で頑張るところがいい。
そんな彼にも、よく知られていることかもしれないが、
たった一つだけ他人に勝り自慢できることがある。
寝ようと思ったら、すぐに(三つ数えるうちに)眠れることだ。
実はこれ私の特技でもある。
さすがに三つ数えるうちにとはいかないが、
電車で座ると次の駅に着く前に寝ているなんてのは序の口。
飛行機では滑走路をタキシング、移動中にほぼ夢の中、
頻繁に利用するマレーシア航空にひとつ文句があるとすれば、
一番気持ちいい、軽い振動に身を任せて、眠りに落ちそうな時に
起こしに来ることってくらいだ。
車だって、四輪駆動車で、ミャンマーの悪路を走破していても
ジャングル内の未舗装林道を爆走していてもすぐに眠れる。
ジャングルでだって例外ではない。昨年味わった象の群れの来襲の際にも
荷物をしょって靴を履いたまま、いつくるかいつくるかとおびえながら
やはり、落ちてしまったし、bigfootで一躍有名になったエンダウロンピン国立公園の
山中で、たった一人で過ごしているときにもすっかり夢見心地だった。
どこでも寝られるというのは、こういう仕事をしていて本当によいことだと思う。
この歳になっても、結構公園で寝ちゃったりも平気である。<これは意味が違いますね。
以前この項でマレーシアのタマンネガラ(国立公園)において
野生生物国立公園局の協力を得て、50メートルを越す高木に梯子を
10本もくくりつけて樹上にプラットフォームを作るプロジェクトの話を書いた。
さて、事件はまさにその作業中に起こった。
われわれがこれはと目をつけた大木のすぐ横にある素手で登れる木を
地元の木登り名人が登っていく。そして、大木の一番下の枝のあたり(といっても
地上20メートルぐらいはありそうだ)に移っていくのだ。
枝があるあたりからは、高木も比較的容易に登ることが出来るようだが、
それでも50メートルの木である、高所恐怖症には無縁の仕事と言っていいだろう。
さて、木の天辺まで登った彼は手にした細紐をぐんぐんとたぐっていく。
すると、そこには登山用のザイルが結び付けられているという寸法だ。
そして、そのザイルを天辺付近の大きな枝にきっちりと固定し、安全を確保して
作業はいよいよ本格的になっていく。このザイルを利用して、他のスタッフが登ることも
あるし、ザイルに結びつけた命綱をつけたスタッフがはしごを下から組んでいく
という作業もある。
梯子も上まで固定され、プラットフォーム材料の合板をザイルを使って、上で
作業するスタッフに送っていたところ、なぜか私は突然強烈な睡魔に襲われた。
どうにも耐えられず、ザイルを引っ張るスタッフに断って、一寝入りすることにした。
合板の余りを少し離れたところに敷き、
これに横になると、本当に瞬く間に眠りに落ちた。
我ながらのび太クンなみのスピードだ。気持ちいい。
非常に気持ちよく寝ていても、そこはそれジャングルでの睡眠、
まわりの物音にはそれなりに敏感だったとみえる。
スタッフの怒鳴り声や、緊迫する雰囲気に思わず目が覚めた。
「どうした?!」と緊張に意気込む私を
ちょっと軽蔑するようにみつめると
スタッフの一人はこう言った。
「樹上の連中がトラのうなり声を聞いて、下にいる私らに
『トラが近くにいるぞー』って伝えてきたんですよ。」
すっと緊張が走る、
「で、いるのか?」
「ボスのいびきを聞き違えたんですよ!!ばからしい!」
どこでも寝られることは、いいことばかりではない。