ジャングルの民に期待してはいけないこと

東南アジアの森林地帯にある少数民族の集落を巡り
彼らと親しくなって、彼らの様子を記録し、彼らの利用する植物に
ついての情報を集める。1994年頃からトシが取り組んできた仕事だ。
ベトナム北部の山岳少数民族などは、その装束を見るだけで
彼らが何族か判別出来る。また装束自体も奇抜で、色彩豊か、
それでいて何やら威厳の備わった素敵なものであることが多い。
写真を撮る側としては実にフォトジェニックな民族である。


これに対してさらに南、トシの本拠地であるマレーシアの少数民族は
総じて特徴に欠ける。30度を超える気温の地域がほとんどで衣装は
半裸という民族が多かったということなのかもしれない。
たとえ半裸であっても、それが彼ら古来の民族衣装であるならば
これを記録することには大いに意義があるだろうし、撮影意欲も
湧いてくる。
だが残念ながら1995-1999年頃、トシが熱帯ジャングルの少数民族の
中に見いだしたのは、赤い牛の顔と23という数字であった。
当時、クアラルンプールの町中では、ベッカム以前、マンU一番の
スーパースター『エリックカントナ 7』ジャージーが
『マイケルジョーダン 23』と拮抗していたように記憶している。
しかし、なぜかジャングルでは、ブルズ『ジョーダン 23』が
一番人気だった。
少数民族を記録する際に赤いブルズTシャツはいかにも具合が悪いと、
半裸の土人スタイルを心のどこかで期待してしまう自分がいた。
以前書いたように、トシは先住民族の人々に対して畏敬の念を持っている。
しかし、撮影という仕事を前にすると、今の彼らではなく、
民族的アイデンティティを示す姿で写真に撮りたい、と思ってしまった。
ちょっと考えればわかることだがこんな傲慢なことはないと思う。
そして、この傲慢な考えはトシだけでなく、実に様々な人が
持っているようなのだ。
ジャングルに依存した狩猟採集経済を営む少数民族にとって、
生活の場である森林の減少は深刻な問題である。
彼らの生活する森林の商業伐採については、
世界中のNGOや自然保護団体が反対を表明している。
森林での採集物を原料にした製品を販売し、
その販売益を先住民族に還元するというビジネスモデルを
全面に出す企業もあって、『先住民族のために森を守ろう』というのは
『地球温暖化防止の為に森林を保護しよう』に匹敵する
森林保護スローガンの一つとなっている。
言ってみれば、世界中が納得する森林保護の二大テーマである。
昨年ゴールデンウィークの休みを利用して久しぶりに数日間を
マレーシア−タイ国境地帯のジャングルで過ごしたが、
森林伐採の進行に本当に驚かされた。
一緒に入った現地の同僚によると「森林伐採許可はまだだが
許可を見越して、伐採を始めている」とのことだ。
要するに違法伐採である。
ジャングルを進むと、こんな所までと思うような深くの木にも
伐採ターゲットとして赤いペンキで×印が付けられていた。
ふいにジャングルの暗さが途切れ、伐採用の林道に飛び出した。
トシは必死で不愉快さを表明したが、
先住民族のガイド氏は気にもせずに言ってみれば敵(かたき)が
こさえた、赤土でドロドロの林道を進んで行く。
すると、前方に数人の若者がたたずんでいるのが見えた。
ガイド氏によると、伐採候補の木にマーキングしている連中だと言う。
つまり違法伐採グループである。
以前のブログで触れたように、ジャングルで最も会いたくない
危険な連中であるが、ガイド氏はまったく意に介していない。
命の危険さえ感じる緊張の中、彼らの所へ着いてしまった。
ガイド氏と違法伐採グループの一人が小声で二言三言言葉を交わす。
そして何事もなかったかのように我々はその場を離れたのだった。
ガイド氏曰く「となりの集落の連中だ。今回のマーキングの仕事で
あいつは、ホンダのカブを新車で買うんだ。うらやましいよ」
少数民族のために森林伐採に反対するなんて、現場を知らない人間の
欺瞞だと、ちょっと偽悪的に思った。
彼ら自身の将来は彼らの判断に任せておけばいいのに違いない。
彼らにも文明を享受する権利はあるのだ。
確かにホンダカブはいいバイクだし。

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