森の人 Part2

マレーシアの森の人である先住民族(オランアスリ)の
方向感覚のすごさについては前述のとおり。
最近、写真を整理しているうちにまた思い出したことがあるので
ご紹介しようと思う。
彼らの視力についてである。


 
以前の仕事では、彼らの集落にいわばホームステイし
彼らと全く同じ生活をしながら、森に関するいろいろなことを
教わっていくという調査方法をとった。
ある夜、翌日の調査準備を明かり*の下で行っていると
外の暗闇から声がかかった。
「おーい、へびがいるぞ」
懐中電灯とカメラをつかんで暗闇に飛び出すと
彼らがいつも小用を足す湖のほとりに向かった。
そこは集落からなだらかな斜面を30mほど下った場所で
湖から10mほどはススキのようなイネ科植物の草むらになっている。
僕らに呼びかけた青年は草むらを踏みしめて出来た小道の
中ほどに立って草むらの中を指差している。
懐中電灯の光を、彼の指差す場所(小道から2mほどのところ)に
当ててみるが、蛇の姿は見えない。
さんざん目を凝らして見ると、太さ1cm長さ40cm位だろうか
細い紐のような蛇が一本の茎に巻きついているのが見えた。
まるでつる草である。
懐中電灯を消してカメラを構えると、ファインダーが
真っ暗でどこにも見えない。
あらためて辺りを見回してみても、ほぼ完全な闇である。
目が慣れるかと、しばらく暗闇でじっとしていたが、
一向に形が見えてこない。
昼間だって見落としそうなつる草に擬態している
蛇を、彼はこの暗闇でどうやって認識したのだろうか?
我々の想像を超えた領域の能力を持っているというしかない。
またまた尊敬である。
さて下の写真は、昨年ジャングルへ入ったときのもの。
先頭のガイドが突然止まって、注意を促した時に撮った。
この蛇はかなり大きいから驚くほどではないかもしれない。
それにしても薄暗いジャングルで瞬時に見分ける能力には敬服する。
*マレーシア政府は先住民族一家族に一台の
ソーラーバッテリーを供給している。
このことで夜更かしをするオランアスリが増え、
視力の衰えを招いているという。
文明とは便利さを与え、それと同等の不自由をも
もたらすものだと言うことがよくわかる。
難しいものだ。

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