レソトの人々(2)

ちょっと前のエントリーで、壁の花になることも多いということを
カミングアウトしたわけだが、初めて会った人と比較的確率高く溶け込めるのは
やはりBARということになる。


 
レソトでの宿泊先Lancers Innというホテルには
駐車場から直接入ることが出来るバー『The round bar』がある。
初日の仕事が思いのほかうまく行ったささやかな祝杯をここであげることにした。
この日一日で感じたのは、レソトの人々は変に媚を売るようなことを言ったり、
愛想笑いをしたりすることがない、ということだ。
私のこの百万ドルの笑顔にもホテルのレセプションは冷淡な対応をすることが多かった。
(もちろん対応はしてくれるのだが、なんか冷たいのである)
もっとも、こちらも彼らの表情が読めずに堅くなっていたのだから、
あちらも変な黄色人種の表情が読めなくて冷たい対応だったということは十分にありうる。
接客業としてどうなのか、ということは別にして。
脱線した。
さて、そのThe round barだが、50�ほどの広さの半分以上を半円形のカウンターが占め
壁際に背の高いスツールとそれに合わせた丸いテーブルが二つある、ホテル同様
木と土と石を使ったなかなかシックな内装である。
カウンターの端に近いところにあるドアを押して中に入ると
10人ほどの客が半円形のカウンターを埋めていて、
いっせいにこちらに目を向けてきた。
人生初の黒人率100%BARである!
たじろぐ気持ちをぐっと抑えて、「Good evening!」と声をかける。
ぼそぼそと「How are you?」「Ntahte」という挨拶の言葉が返ってくるが
特に積極的に歓迎している様子はない。
ざっと見ると女性客が2人混じっている上、カウンターを切り盛りするのは2人の女性で
少なくとも殺伐とした雰囲気はなくほっとする。
カウンター席で空いているのはドアから見て一番反対側の女性の隣である。
BARで1人テーブルの席に座るくらいつまらないことはないので、その女性の隣に座る。
ちなみにこの女性、私の1.5倍ぐらいの容積である。
私の反対側の隣に座る男性が盛んに話しかけているのだが、もしかすると
口説いているのかもしれない。
こちらはビールを注文。
ハイネケンと南アのビールがあるというので、
「地元のビールはないの?」と聞くと「マルチ(Maluti)」という答え。
「じゃー、マルチ」と注文すると、カウンターが少しだけ「おや?」という
雰囲気になった、気がする。
缶からグラスに注がれ供されたマルチビールをぐっと空ける。
お世辞ではなく、ホップの風味を感じることのできるおいしいビールだ。
なんとなく目があった隣の女性に『Good』と合図を送ると、険しい表情を崩さずに
「お前は中国人か?」と聞いてきた。言い方が剣呑だ。
「いや、日本人だ」
「・・・」
これまでたくさんのアジアの国々と欧米の数カ国を訪れて来たが
日本人であることの表明を、ここまで無反応で受けられたことはなく、
軽いカルチャーショックを受ける。
しかも次に来た質問は「上海万博はうまくいっているのか?」である。
人口200万人という小国とはいえ、現地に駐在している日本人がたったの4人だ
というのだから、日本人のプレゼンスが低いのもやむをえないのかもしれない。
『日本人である』ということが免罪符やパスポートになるという
過去の経験にとらわれた傲慢な態度を指摘されたような気がした。
単にからかわれている、という可能性もなくはないが。
ではこの夜は敗北感に打ちのめされて大人しく部屋に戻ったのか、
というとそうではなく、どこから話にドライブがかかったのかわからないが
隣の女性2人(実は学校の女教師2人連れで私を挟んだ反対側にもう一人が後から到着した)が
翌日訪問する予定になっているレソト国立大学(首都から車で小一時間)へ
私を送っていくと言い張るのを必死で御断りし、その女性を口説いていた男性と
マルチビールをおごりおごられているうちに、あちらのお客さんから、その隣のお客さんからと次々におごりのビールが届き、W杯の予想をBAR全体で声高に続けるうちに
早めの閉店の時間がやってきたのである。3時間以上いたことになる…
レソトの人たちは、人見知りをするシャイな人たちだ、
というのがこの日の結論である。
Cheers!Maluti!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です