雨と風、そして日没のタイムリミットに追われるように
ジャングルへ飛び込んだ私。
果たして無事に帰ることが出来るのか？
直進が間違いだと気が付いたのは、獣道のような細道を
かなり下ってからだった。
雨雲の厚さが思った以上なのか、
ジャングル内がみるみるうちに暗くなってきたのだ。
鳥目でもある私は、足下を目を凝らして見るが、自分のつま先も
ぼんやりと霞んでいる。
ぽつぽつと落ち始めていた雨が、大きな音を立てて
本格的に降り始めて来た。
転ばないように気を付けながら、最大限のスピードで降りていた私を
大変大きな問題が待ち受けていた。
下りの細道は岩や石に囲まれた渓流にぶつかっていたのだ。
今降りてきた斜面とその反対側にある同じような斜面に
よって構成される渓谷のような場所に出たのである。
ここはとにかく一刻も早く脱出しなければならない。
岩場を暗闇の中で歩く危険性。また三方から集まる水が
渓流の水位を急激に上げることになり、場合によっては鉄砲水の
危険すらある。何しろ、１時間に300ミリも降ることがあるのだ。
左右の斜面が早くも小さな滝のようになっている気配がある。
よく見えないが。
これは、下手すると命の問題になるかも。。。緊張が走る。
川の下りに向かって右側の斜面を、降りしきる雨と、
流れる水をかぶりながら、必死で登る。
もう全身びしょぬれだ。
すると、前方に少しだけ明るい場所がみえた。
しめた。
大急ぎで近づくと、そこは斜面が中型の木と共に地滑りを起こした場所だった。
木がなくなったことで空がのぞき、明るくなっていたのだが、
その景色は自分の置かれている状況の一つの不吉な暗示のように思えた。
こんな時は落ち着くことがなにより大事だ。
地滑り跡を眺めながら、ザックから水筒を取り出し、ゆっくり口に含む。
円形にざっくりと削られたてっぺんのあたりに何やら板のような岩が見える。
岩の板は、削られた空間の上に卵の殻のように突き出している。
あれは、コンクリート製の建造物だ。
地滑り跡を慎重に迂回して辿り着くと、それは排水溝の基礎であった。
コンクリートの基礎を辿ると、お馴染みのU字溝が10メートルほどと
その先にアスファルトの舗装路が見えた。
舗装路に辿り着いてみると、そこはその日早い時間に飛び出してしまい、
がっかりした、あの貯水タンクへの道であった。
しかし、今は本当にいとおしい舗装路だった。
体中を駆けめぐったアドレナリンのせいか、
私の体はいつまでも熱く、そして悩みの種だったあの違和感は
すっかり一掃されていた。